『おもちゃの交響曲』は『ベルヒテスガーデン音楽』であった
A.a. no.17
Berchtolds-Gaden Musick.
a Violino, Viola con Basso.
Qualiaruolo: Wachtel-Ruf. F.
Cuccolo, Guguck. G. E.
Piffaro con ruoticella: Windpfenigen G.
Trompetta piccola. Trompetchen G.
Rasca Raetschgen (O/)
Organo Oergelchen (O/)
Auth.R.P.Edmundo Angerer Ord: S:ti Benedicti in Fiecht

4)発見された写譜についての考察
 上記が《こどもの交響曲》のシュタムス修道院のヴァイオリン用パート譜のコピーです。上記の記載に続き,ヴァイオリンとバス声部の開始部分2小節があります。さらに、四つ判の9つの声部(ヴァイオリン,ヴィオラ,バス,ウズラの声,カッコウ,風笛,小ラッパ,がらがら,小オルガン)のパート譜(30 x 23 cm)が現存しています。
 まず注目されるのは、一番上に書かれた記号「A.a. no.17」です。これは ”Registrum Musicalium Stamsensium”(シュタムス音楽登録簿)と題するシュタムスの音楽カタログを指しています。さらに、パルセッリが自ら取得した楽譜を区別するための星印も付けられています。
 「Berchtolds-Gaden Musick」はベルヒトルツガーデンムジークと発音します。この『おもちゃの交響曲』に使用される木製玩具の名産地であるベルヒテスガーデンの音楽という意味の造語と思われます。そして、この「ベルヒテスガーデン音楽」を銘打った楽譜は、このアンゲラーの楽譜だけです。
 楽器編成で興味を引かれるのは、ヨーゼフ・ハイドンの作曲として出版された弦楽編成では2ヴァイオリンとバスですが、こちらではヴァイオリン、ヴィオラ、バスとなっています。この編成は、ミヒャエル・ハイドンとされる写譜と同じ編成です。バス(バッソ)とは、文字通り「低音弦楽器」を意味しますが、一般には、チェロとコントラバスが同じパートを演奏します。ちなみにより正確には(Bassi)バッシと複数名で表記すべきですが、ここではチェロとコントラバスが演奏するべきです。
 そしてなにより、フィーヒト修道院の修道士エドムント・アンゲラーの名前が、はっきりと記されています。
おもちゃの楽器は、それぞれ音程を含めて詳細に記されています。しかし「小オルガン」は音程が記されていないことから、むしろ「がらがら」よりも音の響きが暗い騒音装置であるかもしれません。ちなみに「小オルガン」は、18世紀にチロルで使用され、その後使用されなくなったか名前が変わってしまったイディオフォン(体鳴楽器)を指しているとも考えられます。現在の演奏では、よく水笛が使用されます。
 いずれにせよ、このように各楽器まで詳細に記された『おもちゃの交響曲』の資料は他にはありません。


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