レオポルト・モーツァルトは『おもちゃの交響曲』の真の作曲家か?
レオポルト・モーツァルト
W・A・モーツァルト

レオポルト・モーツァルト(Leopold Mozart)(1719-1787年)
 天才ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの教育パパとして音楽史に燦然と輝くレオポルト・モーツァルトですが、当時はそこそこの音楽家でした。彼の著した『ヴァイオリン奏法』は、史上初めてヴァイオリンの教授法を論理的に解説した本として、ヨーロッパ中で読まれていました。また1763年から亡くなるまで、ザルツブルクの宮廷副楽長をつとめています。しかし、息子の希有な才能に気がついて以来、もっぱら息子の教育にかかりっきりになり、自らの作曲家としてのキャリアは半ば放棄したといってもいいでしょう。
 1951年、エルンスト・フリッツ・シュミット(Ernst Fritz Schmid)により、バイエルン州立図書館でレオポルト・モーツァルトの作曲と記された7曲からなるト長調のカッサシオン(Casatio ex G) の楽譜が発見されました。この楽譜はザルツブルクのマクシミリアン・ラープという写譜家が書いたと思われます。その中の3曲が『おもちゃの交響曲』と同一であることが判明し、レオポルト・モーツァルトこそ『おもちゃの交響曲』の真の作曲家だという説が広まり、現在でも音楽書ではレオポルト・モーツァルト作曲説が記載されています。
 この学説の裏付けとなっているのが、レオポルト・モーツァルトの作曲した『そりすべりの音楽』や『田舎の結婚式』などにも表現されている「戯れに満ちた民俗的な楽器への愛着」です。さらに、ヴォルフガングが1770年にボローニャから姉にあてた手紙で、音楽に合わせて「小さなラッパや小さな笛を吹きたい」と書いていることからも、実際モーツァルト一家が、この『おもちゃの交響曲』を家庭の楽しみとして演奏していたことは間違いのないことでしょう。
 しかし、この事実だけでレオポルト・モーツァルトを真の作曲者とするには、まだ不十分です。さらに、重大な疑問もあります。
 レオポルト・モーツァルト作とされる『おもちゃの交響曲』だけがト長調であり、さらにホルンも加わっているのです。これに対する明確な回答はありません。
 このバイエルン州立図書館で発見されたレオポルト・モーツァルト作とされる楽譜は、もう一点重要な意味を持っています。それはこの楽譜により、当初言われてきたヨーゼフ・ハイドンやミヒャエル・ハイドンではないという一つの根拠になりうるのです。つまり、レオポルト・モーツァルトとハイドン兄弟との親密な関係から、尊敬するハイドン兄弟の作品を自らの作品に取り込み、かつ自分の作品とすることは考えられないからです。


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