1982年ザルツブルク
モーツァルト音楽大学旧校舎(現在の国際モーツァルテウム財団)
1982年の国際モーツァルト週間。指揮:佐々木 修、ピアノ:マルクス・ヒンターホイザー
ハーゲンカルテットを含むモーツァルテウム音大オーケストラ

モーツァルテウム音楽大学の指揮科での授業風景

 私は1977年から1984年まで、オーストリアのザルツブルクにあるモーツァルテウム音楽大学の指揮科に在籍し、最後の2年間は指揮科の講師をつとめました。
 ある日の授業で、この『おもちゃの交響曲』が話題に上りました。指揮科の教授は、指揮者としてよりも、むしろ作曲家として有名であったゲルハルト・ヴィンベルガー教授、そして指揮科と作曲科の学生が5〜6名だったと記憶しています。そこでのテーマこそ、「おもちゃの交響曲の真の作曲家は誰だ!?」でした。
 楽譜にはフランツ・ヨーゼフ・ハイドンと記されていますが、明らかにヨーゼフ・ハイドンの他の作品とは作風が違います。ヴィンベルガー教授曰く、「作曲家がわざと悪い響きや、下手に作曲は出来ないものだ」ということでした。つまり、『おもちゃの交響曲』は、あまりにも雑な作曲という訳です。また同様に、ミヒャエル・ハイドンやヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトなどの著名な作曲家ではないという意見が多数でした。そこで当時は最新の学説であった、レオポルト・モーツァルト作曲説の検証に入りました。バイエルン州立図書館でレオポルト・モーツァルト作とされる写譜がみつかったこと、またヴォルフガングが姉にあてた手紙で、「おもちゃを演奏したい」という記述もあり、作曲の「下手さ加減」もレオポルトならば納得がいくということで、レオポルト説が高まりました。しかし、ヴィンベルガー教授は二つの疑問を投げかけました。一つは、レオポルト作曲と記されているカッサシオンの楽器編成が、なぜ、伝わってきた弦楽器とおもちゃの編成ではなく、2ホルンが加わっているかという点、また、なぜト長調かということです。
 ヴィンベルガー教授の推測では、レオポルトが自らの曲に、当時すでに流行していた『おもちゃの交響曲』をアレンジして挿入したのでは・・?ということでした。さらに、真の作曲者はザルツブルク近郊の無名の音楽教師ではないか・・と語っていました。


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