入学生に贈る言葉

 

 「入学生に贈る言葉」は、去りゆく人に「贈る言葉」のようにうたの文句にはならないが、「医学部入学」という目標を達成した諸君に、まず入学おめでとうという次第である。

 だが、これからどうするか。

 学問の世界では、ある目標を立てて山を登るように研究してゆくが、頂上に達したときには、さらに新しい山が向こうに見えるものだ。そして新しい意欲がわいてきてそして新しい山へ向かってゆき、一生を送るものだと思う。

 入学したあとどうするか。

 一人前の医師になるのに、6年後にひかえている「国試」に通らなければならない。だから次は「国試」に通ることが目標になることが目標になるのは当然だが、これだけで青春の大部分を送ってしまうのは、あまりにももったいないことだと思う。

 医師になること、医学をやることを、間違ったと思う人は、速やかに転校されるとよい。

 私のように「国試」は受けないで、医師になった者がいうのは申しわけないが、諸君のような頭脳の持ち主なら、専門へきて、普通に授業にでて、普通に勉強すれば必ず「国試」には通るものと思う。

 医進過程の授業はどうでもよいというのではない。

 大学の本質は、あらゆることに疑問をもち、自ら考えることにあると思う。それを大事にあたため、大学卒業後何十年も続く人生の中にそれが生かされてゆくものだと思う。

 それでこそ学問に進歩があるものだと思う。

 友人とつきあい、運動部に文化部に君たちの「青春時代」を楽しんでもらいたい。

(’84新勧 昭59.4.)

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