高血圧の人は日常生活のこんな点に気をつける

 

 血圧が高いといわれたからといって、すぐに病気と思いこむのは禁物です。血圧は人間のもつ「生体情報」だからです。したがって、できるだけ正確に自分の血圧の状態を知ることが大切です。ここでは、食生活のあり方を中心に、高血圧の人が、日常生活において留意すべき点についてわかりやすく紹介します。

 

 高血圧は”病気”ではなく”状態”である

 

 ”高血圧”といわれたら、”病気”になったと思いこんでいる人が多いのではないでしょうか。それは血圧のことを知らない人の話です。医師は人を病人にしたてた方があつかいやすいし、病気にしないと保険もききませんから。

 人は生まれてから(胎内にいるときからですが)、死ぬまで心臓がうごく、脈をうっているように、血圧があることは生きている証拠なのです。

 そして血圧の本当のことを調べると1拍1拍その値は違うのです。1日の内でも10ミリや20ミリは動くものなのです。それを1回測っただけで一喜一憂し、血圧が高いといわれたからといって、病気になったと思いこんではなりません。

 ところが世の中には「WHO(世界保健機関)の高血圧の定義」などというのがまかり通っていて、テレビとかあるいはこの種の雑誌でも説明されることが多いので、権威に弱い日本人は、なんとなく自分のことのようにあてはめてしまうようです。この値は統計的に集団に用いられるもので、個人にあてはめるものではないんですが。

 WHOといっても、専門委員会ごとによって考え方が違い、たとえば最高血圧140ミリという値は、1983年までは正常域に入らなかったのに、いまは正常域に入っているのです。要は人間のもつ「生体情報」としての血圧値を、できるだけ正確に、数多くキャッチして、自分の血圧の状態を知ることです。

 

 高血圧の人は人一倍生活に気をつける

 

 血圧を1回だけでなく、何回も何年も測ってみると、数千名もの同じ人を20年以上測定したデ−タからいうのですが、血圧は人によって小さいときから、小学校や中学校のとき、いやもっと小さい時から、自分の血圧水準とでもいうものを持っていて、それがそのまま低い人は低いままに、高い人は次第に高くなっていることがわかりました。

 だからたまたま大人になって血圧を測ってもらって、”高血圧”とわかっただけの話なのです。その時に高血圧という病気になったのではありません。

 血圧が高い状態にあること自体はほとんど問題はありませんが、血圧が高い方が元気だという証拠はありません。低血圧状態の人には、いろいろ愁訴があることが多いのですが、そんな人は永久に生き残るという笑い話もあるのです。

 がしかし、血圧が高い状態が長く続いて中年になると、循環器系の疾患を起こすことがわかりました。日本では脳卒中が、欧米では心臓病、そして腎臓にも影響してくるのです。なぜ日本が脳で欧米が心臓なのか面白い謎ですが、本当のことはまだわかっていません。多分食生活の違いによるものでしょう。

 そして最高血圧120ミリ、最低血圧70ミリ付近を一生保っていることが最も長生きで、それより高くなればなるほど、脳心事故が起こることはすでに計算されていることなのです。

 人によって、血圧が小さいときから違うことは、いわゆる遺伝体質的な要因に関係していると考えられており、動物実験では研究されていますが、もうこの世に生をうけた者としてはどうしたらよいでしょうか。

 中年になってはじめて血圧を測り、高血圧と分かった人は手遅れといわなければなりません。そして、いつ発作が起こってもあわてない心がけが必要です。どんなきっかけで発作が起こるのかはまだはっきりしません。

 脳出血は急に起こります。脳卒中心臓病の起こり方、そのときどうするか日頃から考えておくべきです。

 それでも長持ちさせなければならないし、そのてがかりがあるのです。正しい医療を受け、自分では日常の生活に気をつけて。

 

 食塩を減らせないようでは管理にならぬ

 

 ちょっと前まで、ほんの10年位前までですが、食塩は高血圧に無関係であり、人は1日食塩を15グラムから20グラム摂取しなければ生命を維持する事は出来ず、日本人は菜食でカリウムが多いので食塩を余計必要とし、欲するのであると、教科書や百科事典に掲載されていたのですから、”おふくろの味”に育ったいまの男性は、最近のようになんでも、減塩、減塩といわれると、つい昔の味を出してくれる店へ足がむくのではないでしょうか。

 しかし、日本人、とくに東北地方の、また農家の人々はまだまだ食塩が多すぎると思われます。日本人全体としては1人1日10グラム以下が目標にされましたが、アメリカでは5グラム以下が目標であることは御存知のことでしょう。

 知識はあるが実行はなかなかというのが、タバコ同様食塩もということでしょう。食習慣を変えることは大変なのです。

 昭和40年に塩蔵を冷蔵に切り替えたらどうかということで”コ−ルドチェ−ン”を勧告しましたが、それ以来しらずしらず世の中は低塩になり、人の好みはかわってきて、日本の脳血管疾患や胃癌の死亡率も好転したことは、その勧告に参加した者としては腹をきらずにすんだ気持ちです。

 日常生活で、外から摂らなければならない食塩量はきわめて少量で、数グラムといったことが分かりましたから、ふつうの食事をしていて食塩が足りなくなることはまずありません。食塩をへらしただけで血圧が安定する人は、日本にはちょっと大げさにいえば、何千万人もいると思われます。もっとも人によってかなりの食塩を毎日何十年も摂っていても高血圧にならず、長生きする人がいることもわかていますが。

 高血圧といわれた人が、毎日の食生活で食塩を減らせないようでは医療費は高くなるばかりです。もっともその方がよい人がいるのが世の中で、タバコはやめられず、肺癌になったら治してくれというのが人間なのでしよう。でも低塩にならしていけばいけるものなのです。

 

 野菜・果物はとった方が高血圧には良い

 

 ちょっと前「日本の菜食こそ食塩を必要とし、高血圧の元凶です」と一流の保健衛生の指導者がしゃべっていたことを思い出します。

 りんごをとることが、脳卒中や高血圧の予防になるのではないかといいだしてからもう30年近くたってしまいましたが、野菜・果物をとることが高血圧にはよいことだとは、多くの学者が認めるようになりました。

 がまだその理由ははっきりしません。”ビタミンC”、”カリウム”そして最近では”食物繊維”が考えられています。

 高血圧になった動物の食生活を欧米流にしてやると、脳卒中が起こりにくくなるという成績があります。コレステロ−ル、コレステロ−ルといわれたことがありました。卵1つに気をつかった人がいたのではないでしょうか。それがいまは適当に摂った方がよいと言われています。

 高血圧そしてそのあとの続く脳卒中、心臓病とあるために、その分析、証明は難しいのです。とくに人間についての証明を明らかにすることはまだまだです。

 タバコは心臓病にも悪いが、酒が悪いという証拠はありません。といって大酒を毎日飲んでいいはずはありません。

 高血圧、高血圧といっていちいち気にする必要はないでしょう。しかし日常の生活を、体重もコントロ−ルできないようでは、いまや1人前とはいわれないと心得るべきでしょう。

(暮らしと健康,30−31,昭60.12.)

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