アメリカ人の衣食住

 

 昭和40年の9月から41年5月まで、アメリカのミネソタ大学公衆衛生学部生理衛生学研究室に留学し、8月に帰国した。この機会にアメリカ・ヨ−ロッパ各地をくまなく歩いた。今日は特にアメリカの話題について焦点をあわせて話をすすめたい。

 今朝弘前から青森にくるのに、気がついたことは、1年前にくらべて青森でも自動車が混んできて、どこに駐車したらよいか困った。

 また、県庁の第5委員会室で会議があるという知らせにエレベ−タ−で5階でおりたら、第5委員会室は6階にあることがわかった。

 アメリカではどんなビルでも第5といえば5階にあるのが常識だ。外人が日本にきて家をさがすのに、とても困っている。こんな点はアメリカは合理的なシステムになっている。

 今回、アメリカに行った主な目的は疫学的研究をさらにすすめるためであった。この関係の世界的な学者と意見交換したりして現在手がけている研究に自分なりに自信をもって帰ってきた。

 保健婦のみなさんのなかでもアメリカの保健婦活動そのものを自分の目で見抜くことが大切であり、それも実現が不可能な話でもない。

 戦後、日本はアメリカの影響をうけ、多くの人によってアメリカの文化・文明が導入され紹介されてはいるが、それぞれの人の感じかた、受け取り方が異なりその人の主観によって伝えられているが、いずれも事実であろう。

 そういう意味で保健婦さんもぜひ自分で行ってみて直接感じとってほしいものだ。

 留学中できるだけ多数の専門家にあう機会を作り、自分であちらこち歩きまわったとき、日本にはないもの、あるいは違ったものを探し、写真におさめた。8000枚以上にのぼった。

 その一つ一つに考えさせることがある。その違いがどうして形づけられているか。その事実と健康を結びつけたとき、どのように考え理解したらよいのか。総合的に生態学的にながめていくという立場をとってきた。

 いろいろのことが眼についたが、二、三気がついた点についてどうみて、どう感じたか、その一端をお話したいが、それをそのまま受け取らないで、このような例があるということで理解してもらいたい。

 その1つは、決められた時間が厳格に守られているということである。進歩した文明生活でお互いに共通していることは何か、ということは約束した時間を守ることである。

 講義時間についても学生、先生が両方が守っている。時間内に講義が終わらないと学生は定められた時間になれば席を立って出て行くこともある。このことがよいとか悪いとかいうことでなく、一つのアメリカでの事実であるが、みなさんがどう考えるかということが大切である。

 アメリカの生活の特色は第1に自動車に支配されていることである。第2にはすべてがドライであること。気候からみても、また気分的にも感じられ、それに対して日本人は人口が多く、きわめてウエットであることを感じた。そして日本人は勤勉でよく働いているのにもかかわらず生活程度がそんなに高くない。

 カ−(自動車)に支配された生活

 アメリカの殆どの家は自動車をもっている。勿論通勤にも利用されており、共稼ぎ夫婦はあらかじめ約束した場所に定時間に待ち合わせし、一緒に自動車に乗って帰る。勤務時間が終わるとすぐ会社には一人も姿が見えなくなる。自動車の駐車の問題、走行が機械的に流れ、このことが時間を守る習慣に通じている。

 勤務は週5日制であり、日本も近くそうなるだろう。金曜日の夜は徹底的に生活を楽しんでいる。日曜は教会、土曜日の朝は一家そろって郊外にあるス−パ−マ−ケットへ自動車ででかけ、1週間分の買い物をする。ス−パ−マ−ケットはサ−ビスが行き届き、無料の駐車場を整備し、店内を一巡しながら必要な品物をカゴに入れ出口で精算する。袋4-5個にまとめられた整理札が渡される。この札と引き替えに自動車に積み込む仕組みになっている。

 日本にも方々にこの形のス−パ−マ−ケットができてきた。 

 また、自動車の発達は街づくりのパタ−ンも変えつつある。下町といえば盛り場や商店があって人の集まる場所を思い出させるが、ロサンゼルスあたりでは、ハイウエイが導入され街づくりは新しい空き地に計画的に建設され、古いところは整備されつつある。高級レストランやクラブなどレクリエ−ションセンタ−は郊外に伸び、街の中心地はかえってさびれてきている。

 このように、アメリカでは自動車を活用しないと生活ができない。税の差し押さえの対象から自動車が除かれていることからも想像できる。

 しかし、自動車の活用が便利な反面、こんな問題が生じている。単調なドライブをしなければならないことと自動車の混雑をどう解決するかの問題になっている。このようなことから、日本の新幹線を見学し、導入したいなどの話題もある。ボストン、ニュ−ヨ−ク、フィラデルフィア、ワシントンを高速の汽車で結ぶ計画が立てられた。

 マイアミで学会が開かれ各州から約2万人が集まったが殆どが飛行機を利用している。私は各地の土地をみるために30時間のバス旅行をしたが、日本の汽車の1等車より楽であった。

 現在の交通機関は、自動車か、遠方は飛行機を利用され、汽車は殆ど活用されていない。YS11飛行機の売り込みがあり、注文が殺到したということも納得できる。

 自動車の駐車場と駐車料金も問題になっている。大学を例にとると駐車専用のビルを建て、学生、職員用の駐車場があり、月なり年で料金をとっており、1回の場合は100円位になっているのが普通である。

 青空駐車もやむ得ず許可しているところもあるが、ゴミ集めがやってくる定まった曜日には、駐車禁止になっている。駐車違反は専門に係りをおきどんどん金をとりあげている。

 映画もドライブインの劇場がいたるところにある。大きなスクリ−ンの前に自動車に乗ってイヤホ−ンで聞く仕組みになっている。

 

すべてがドライ

 

 日本は一般的にウエットであるのに対して、アメリカはドライである。気候からみても日本は雨の日が多くじめじめしている。ワイシャツなど洗ってかけておけば1日で乾くが、日本ではそういかない。住宅の建て方もこれに支配されている。

 映画「ジャイアンツ」の中で握手をすると音がする場面があったが、静電気が体にたまっていて、握手のとき火花がでるからである。自動車のくさりをたらしているのもそのためである。

 家事の雑事が合理化され少なくなりつつある。自動洗濯機が、ビルや通りの店屋などの備えつけられている。洗濯機に25セント(100円)入れれば30分ぐらいで途中なにもしないで半乾きになって出てくる。次に乾燥機に入れ直せば、ほす必要もない。食事も24時間いつでも外食ができるようになっている。生活の合理化は共稼を容易にしている。大学生の大半は結婚している。一般のサラリ−マンで、家賃100ドル、自動車100ドル、食事100ドル、レクリエ−ション100ドル、こんな割合が最低レベルであろう。

 

カギの生活

 

 すべてカギがかけられている。大きなビルを例にとっても、戸口に一つしかカギがない。部屋の内側からは自由にあけられるが、いったん戸がしまると外側からは開かない。いつもカギは身につけていなければ大変な失敗をする。

 アメリカではカギを持った人は信用される。日本の生活にはカギがない。プライバシイという言葉に適当な日本語訳がない。一つの問題である。

 

 健康面で考えてみても、自分の健康を自分で守ることが基本であるのに、日本ではそうでない。それにつけこんで健康教育も説教的に健康をうりつけている面がある。保健婦活動も同様な傾向がある。

 本人がどう考えるかが根本的な問題であるにもかかわらず自分のいうことを聞かないのは何故かというように考える。アメリカ・ヨ−ロッパでは本人が考え判断し物事をすすめる。だからいつもyes,noははっきりしている。

(日本看護協会保健婦会青森県支部:ふりかえり前にすすむために.保健婦規則制定25周年にちなんで,7−9,昭41.11.1.)

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