高血圧風土記

 

 佐々木直亮さんのご専門は衛生学、東北地方を中心とする高血圧や脳卒中の疫学的研究で知られた方です。東北地方に多い、働き盛りの人の脳卒中の原因を追究しているうちに浮かびあがってきた、寒さと食塩の問題、病気の背後にある、生活や文化とのつながりなどについてお話していただくものです。   

 NHK 篠崎カヨ (昭48.2.2.NHK放送)

 

篠崎:弘前の駅へ降りまして、まず感じますことは、非常に寒くて、「ああ、こうゆうところだったら高血圧も多いのも無理ないな」って気がしたんですけども、実際、東北地方というと、すぐ、寒さと高血圧ということを考えますけれども。

佐々木:寒さと高血圧ということは、大体常識のようですね。ところが、外国へまいりますと、あまり常識じゃないんです。私、1966年に一年間アメリカ(ミネソタ)におりましたが、非常に寒い所で暮らしたんですけど、たとえば、そこの研究室で、冬に血圧が上がるなんてデ−タを示しても信用されない。なぜ信用されないかということですね。東北地方のこのへんでは、冬に血圧が上がることは事実なんです。でも、外国ではそういうデ−タが出ないのです。

篠崎:向こうは冬でも暖かくしているからですか。それとも食べ物で、脂肪のようなものをとっているからですか。

佐々木:なぜかというのを知りたいわけです。で、前に弘前大学におられた高橋英次先生とご一緒に、このへんの地方の方々の血圧を測って歩いたことがあるんです。そうしますと、その当時はまだ暖房があまり普及しておりませんで、当時だと薪スト−ブですね。最近はほとんど石油スト−ブになっていますけれど。当時は薪スト−ヌ、それから、従来のいろりの生活がありました。そういう、非常に極端に部屋の温度の違う環境がありまして、その温度環境の実態調査と、それからそのような生活をしている方々の血圧を測ったわけなんです。そこで両者の間に血圧に差があることがわかった。

 常識でおわかりになるように、寒いほうの生活をしている方々の血圧は高いし、冬暖かい生活をしている方々、スト−ブをつけると大体室温は冬でも20度程度になりますが、そういう生活を長年やっている方々、あるいはつけはじめた方とか、そういう方々の血圧が低い、これは面白いということで論文として発表したことがあるんです。

篠崎:それは、いわゆる文明生活をしている欧米人の場合はそうかもしれませんけど、それじゃもっと文明度の低い所で、しかも暖房生活をしていない所ではどうなんですか。

佐々木:これはたとえば、エスキモ−の例をとりますと、まあ、非常に原始的だというこでしょう。しかし、彼らの生活というものは、最近の色々な調査でもわかってきたのでけれど、かなり室内は暖かいですね。むしろ、世界中で一番寒い生活をしているのはこの東北の方じゃないかと。あるいは長野とかね、そういうことがだんだん分かってきたわけです。日本でも北海道へまいりますと暖房完備ですね。最近はどうにか、学校でも役所でも、暖房完備になりました。、われわれの家庭も大体はよくなってきたと思います。しかし、ちょっと前まで東北地方の人々は非常に寒い生活をしていた。

 われわれが研究をはじめました昭和30年前後の当時そうだったんですけども、それから十数年間青森県、秋田県の各地でいろいろ追跡し、研究してみますと、やっぱり、寒い生活をしておられるような方の中から脳卒中で亡くなる方が出ている。脳卒中の中でも、最近わかってきたのですが、、脳出血ですね、そういうタイプの脳卒中で亡くなる。このへんで「あたり」というんですけれど、これが多いんじゃないかというのが、十数年追跡いたしました。

篠崎:そうですか。その脳卒中のうちで、出血と脳梗塞、その二種類がるわけですね。

佐々木:ええ、それで、いま「あたり」という言葉でお話ししたんですけど、このへんで「あたった」という言葉があるんですね。さらには「ぼんとあたった」とか「ビシッとあたった」とか「ドタッとあたった」まさしくわれわれが医学的にいう、ひとつの症状を示していると思います。で、その言葉がたいへん面白いのは、つい先だって、広島のほうですね、あちらのほうに行きましたら「ブラブラになりんさった」とこういうんですね。それから、新潟のほうでは「いっとき中気」という言葉があるということです。この放送は全国放送ですから、いろいろ、脳卒中をその地方でどういうふうにいっているかということを教えていただくと、また、それなりに面白いんじゃないかと。

篠崎:そうですね。いろいろな卒中のタイプを暗示しているかもしれませんね。

佐々木:はい。ギリシャ語では、アポプレキシアと申しまして、急に意識を失って倒れて、打ちのめされた状態、こんなような状態を示す。そういう言葉があるんですね。このへんが第一のヒントで、この東北地方にさっきのお話のあった寒さが関係しているのではないかなと、こういうことなんです。

篠崎:そうですか。それから、いまの寒さの問題なんですけれども、そうすると、いまよりもっとわるい暖房生活をしていた戦争中のほうが、高血圧の人が多かったということになりますか。

佐々木:それがちょうど逆なんですね。戦争中は、「あたり」が少なかったですね。われわれの計算でも、大体、あの時代の働き盛りの方々は、まず平均して5年ぐらいは長生きになっていたんじゃないかというふうに思うんですね。戦時中の脳卒中の死亡率が落っこっていますね。これが最近どんどん上がってきているわけです。血圧のレベルのほうでみますと、その当時低かったんです。それがまた、最近どんどん上がってきています。日本は大体脳卒中の国なんですが、戦時中に減って、また復活してきたという、そういう状態が認められています。

篠崎:そのことはどう説明がつくんでしょうか。寒かった戦争中の方が少なかったということは。

佐々木:だから、戦争中は、寒さとか、あるいは働きすぎとかいうことがあったわけですから、そういうことだけじゃどうも説明がつかないので、それで高血圧にはいろいろな原因が関係しているのではないか、動物実験とか、いろいろ研究していまして、その中の一つに食塩という問題がでてくるのです。食塩というものを考えてみますと、戦時中は非常に少なかったわけです。塩一升を米一升で探し求めたわけなんですけれど。

 だけど、健康のほうからみますと、日本だけじゃなくて、外国でも、戦時中は非常に健康になったと申しましょうか、結核で亡くなった方は多いんですけど、循環器系の病気ですね、いま話題になっているような心臓病とか、脳卒中とか、これが減ったんです。外国では食生活の中の脂肪が減ったからじゃないかということで、そっちのほうに学問が発展していって、脂肪・脂肪ということをいっているわけなんです。日本では私は食塩に注目したわけだけれど、あまり声が届かない。

篠崎:なるほど。寒さと並んで、塩分の多い食事というものは高血圧のもとになりますよ、だから、関西料理のような薄味のものを食べなさいと、よくお医者さまがおっしゃいますけれど、そうすると、戦時中は、その寒いというマイナスを食塩が少ないというプラスで補っていたということになるわけですか。

佐々木:こういう学説もあるんです。これは満州での研究ですが、非常に寒い所で食塩をとるということです。これが耐寒性を増すんじゃないかという研究もあるんです。代謝が増す。それから、労働のときに食塩を必要とするという話もあります。汗をかきますからね。大体、日本の学問といいますか、、あるいは明治・大正を通じて発展してきた学問のなかで、食塩の摂取を合理的に説明すると申しますか、われわれ日本人が非常にたくさん食塩をとっているんですけれど、これが目的に合っているんだと考える、こういうふうに学問がすすんできたんじゃないかと思うんです。

篠崎:つまり、寒さに耐える力を増すとか、汗で失ったものを補うとか食塩が必要だからとるので、とらなければ不都合なこともおこるというわけですか。

佐々木:ところがここ十数年でわかってきたことは、この地球上にはほとんど食塩をとらないで生活している人間がいるという事実なんですね。それと同時に、そこの人たちに、いまでいう高血圧がないと。逆に、日本と同じくらいに非常にたくさん食塩をとっている人が日本以外にもあるわけなんですけれども、そういう所では血圧が高くて、あるいは脳出血があると。こういうことがわかってまいりましてね。それと同時に、食塩と高血圧との関係が動物実験でも証明されるし、いろいろ証拠がでてまいりました。はたして、食塩がほんとうに必要な量はどの位なのかという疑問がでてまいりまして、それをここ十数年追究してきたということなんです。

篠崎:食塩はほとんどとらずにいる国民というのは、たとえば。

佐々木:ブラジルの原住民がほとんどとっていない。そのほか、ニュ−ギニヤとかオ−ストラリアとか、いろいろな所でわかってきました。ごく最近ではフィリッピンのミンダナオ島とか、あるいは横井庄一さんなんかも、ほとんど塩をとらなかったという話もありますしね。地球上に生まれて人間がどういう形で食塩をとるようになったかということに、もう一度目を向け直してみたいと、こう思っているわけです。

篠崎:いま、食塩としてはとらないとおっしゃいまいましたけれど、必須なものですから、自然な形で食べ物の中に入っているものはとっているわけですね。

佐々木:それはとっているわけなんです。

篠崎:それはどの位なんですか。

佐々木:これがまず数グラムじゃないかと思うんですね。大体、3グラムとか5グラム以下といわれている、食塩として。

篠崎:日本人はどの位とっているのですか。

佐々木:大体10グラム以上。15グラム、20グラム、中には30グラム以上とっている方がいるのです。それは結局、なぜかといえば、東北地方を例にとればわかりますが、あるいは日本全体を例にとってもいいんですけれど、日本の食生活の形があるわけです。大体、塩蔵物に頼っておった。まあ、味噌とかしょうゆとか漬け物ですね。これがあるんじゃないかと思います。

 外国の例を申しますと、西インド諸島にバハマ島というのがありまして、ここは最近観光地になったんですけど、そこの原住民の例は、塩づけにした魚をほして食べるとか、あるいは井戸水に非常に塩分が多いとか、塩の入ったブタの脂で食物をいためとかいうことがありまして、大体、日本人の東北なみに食塩をとっているといわれています。そして、ここで高血圧が多いとか、あるいは脳卒中の脳出血が多いというのを調査団が見つけまして、環境か遺伝か、ということで、非常に問題になった論文が発表になったんです。

篠崎:そういう所は、まったく寒くない所もあるわけですね。

佐々木:ええ。非常に暖かい所ですね。日本でも、例えば、沖縄、あるいは小笠原とか、案外暖かいと思いますけれど、日本の平均より、ちょっとよけいに食塩をとっているんじゃないでしょうか、あるいは、血圧も少し高いんじゃないかと思っております。

篠崎:そうですか。そうすると、日本の国内でいえば、関西地方はすくないんですか。

佐々木:ええ。そうなんです。先ほど、関西の薄味といわれましたね。血圧とか、脳卒中のほうでいえば、関西地方のほうがいいんですね。東北地方に比べると。この点でずいぶん長生きなんですよ。勿論脳卒中はありますよ。ありますけれど、これは年とってからなる脳卒中で、最近の脳卒中の形でいえば、脳梗塞とか、あるいは以前いっていた脳軟化ですが、いわゆる「ブラブラになりんさった」というこういう形の脳卒中があるわけなんです。ところが東北地方のほうは「ボンとあたる」とか「ビシッとあたる」とかいう、日本の中でも脳卒中の死亡や食塩のとり方に地域差がある。

篠崎:出血型が多いということですか。

佐々木:ええ。それが若くて、働き盛りにあるということに、非常に問題があると考えたわけなんです。

篠崎:と、その塩分の濃いものを食べていると、わるいことの蓄積の結果が早くでるというころであるわけですか。

佐々木:ええ。早くでるというのが大切な点であって、同じ脳卒中でも日本、あるいはこの東北地方は若く、早くおこるということです。単に数が多いということだけではないと思うんですね。どうも脳血管の病気というものは、結局、人間の一生の一番終わりにの問題ではないかと考えるわけです。だから、いずれは何かで死ぬわけですが、交通事故で死なないとか、ガンで死ななければ、最後は脳の病気で死ぬと。そうするとやはり、一番最後にたどりつくところは脳血管だと、思うんですけれども、その前によく出血があるわけですね。それがこの地方にごく普通にあったから「あたった」というような言葉が生まれてきたんではないかという解釈をするわけです。

篠崎:そうですか。先ほど、遺伝か環境かという論議になったといわれたんですけれど、食塩が多いということが確かに関係があるらしいということは、いかに頑迷な人でも認めると思います。それでも、たとえば、東北地方の人は、生まれつき血圧が高い、それをさらに食生活が増強するという考え方はないんですか。

佐々木:いま、いくら頑迷な方でも認めるとおっしゃいましたが、学問の世界では非常に厳しくて、食塩説を認めない方もいるんです。それは何故かといいいますと、こんなにたくさん食塩をとっているこの地方、あるいは日本人、あるいは世界中の人は、大体10グラム以上とっているんですけれど、そういう所でも、一生血圧が高くならないで送る人もいるんじゃないかと、こういうことで、なかなか認めないという人もいるわけなんです。しかし、動物実験によると、そこが証明されているわけなんです。非常に食塩に鋭敏な系統の動物と、鈍感なほうがあると。これを実際にやられたのはアメリカのド−ルという先生で、その先生が食塩と遺伝的な要素、それを追究しておりまして、遺伝的な要素も否定できないわけです。

 われわれもこの東北地方で血圧の調査をはじめたとき、大人だけ、血圧を測ったんじゃないんです。小学生とか中学生を測りまして、それを十数年続けているわけなんですけれど、そうしますと、子供のときから血圧が高い方と低い方がある。大体、高い方が20歳になり,30歳になり,40歳になって、そしてず−と高くなっていくんじゃないかと思うんですけれども、一方に低めの方がいるんです。ね。こんなにたくさんの食塩をとている地方でも低い血圧で一生を送る人がいる。これはたいへん幸福な方だと思います。いわゆる遺伝と環境との問題は、ちょうど車の両輪のようで、どっちともいえないんじゃないかと。はっきり分けられないというふうに考えるんですけど。

篠崎:それから、食塩の多い食べ物というのは塩蔵物からくるとおっしゃいましたが、そのことは食物を貯蔵する手段としては、非常に有効なわけですね。

佐々木:これは人間のひとつの知恵ですから、むかしは非常に食塩といのは貴重なものでした。大昔は、とても食べ物にふりかけるとか、あるいは塩蔵物なんかに使うとかはできなかった、という人もおります。サラリ−マンのサラリ−というくらいですからね。ロンドンのザ・タワ−、いわゆるロンドン塔、あそこの宝物殿の中に塩の入れ物が飾ってありました。また、王様の使っていた塩のスプ−ンてのもありました。塩の入れ物は代々の王様の冠、こちらはダイヤモンドで飾られた豪華なものです。これらの上に置かれているんですね。塩はそれほど貴重品だったわけです。それがだんだんと容易に使えるようになって。何に使ってきたかというわけです。私は食品の保存に使ってきたんじゃないかと思います。食品の保存にはいろいろな方法がありますけど、その中の非常な簡単な方法として、使われてきたんじゃないでしょうか。

篠崎:すると、それはある意味では必要悪みたいなところがあったけれども、いまのように家庭に冷蔵庫が普及し、いわゆるコ−ルドチェ−ンみたいなものができてくると、保存ということだけからいえば、それほど、塩蔵物に頼らなくてすむから、薄味のものをとろうと思えばとれるようになってきたわけですね。

佐々木:そういうふうに考えれば、どんどん日常の食生活の中の食塩は減らすことはできると思います。どうも、自然に含まれている食塩はいいんですけれど、いわゆる人間が人間の知恵で付け加えた食塩が問題だと考えます。

 食塩が問題じゃないかという時代になってきたら、それを意識的にとり下げていったほうが、健康のためにいいんじゃないかと。

篠崎:さっきのお話のように、3グラムで立派に生活をしている民族がいる以上、そこが一応の線だということになるわけですね。

佐々木:われわれのように、小さいときからある程度慣れちゃった人間は難しいわけで、非常に辛いとは思います。しかし、10グラムも20グラムもとる必要はないんじゃないかと・・・。できるだけ意識的に減らしていく、これを急に減らすのは、人間のからだがそう出来上がっておりますから、難しいと思うんですが、意識的に減らしていく。そうしてゆくと、私はどうも、健康には損なことではなくて、むしろ得なほうが多いんじゃないかというふうな見方をしているんですけれど。

篠崎:それから、もう一つ。塩悪者説に対する一種の反論といいますが、日本人は菜食民族で、野菜をたくさんとる。すると、野菜というものはどうしても食塩を必要とする食べ物なんだと。つまり野菜をたくさんとるとカリウムがナトリウムを連れ出すから、食塩を補給する必要があるんだという考え方もございますね。

佐々木:この考え方は、いわれていたようにあると思います。そして、ほとんどの教科書にそう書いてある。しかし、この話をすると大変長くかかるんですけれども、結論を申しますと、非常に古い文献、大体100年以上前のドイツの文献がズ−トそのまま引用されているのではないかと思います。ドイツはジャガイモを食べていますよね。ジャガイモを食べるときに塩が必要だということを理論づけようとしたドクタ−・ブンゲって方の論文なんですけれども、それのあとを引いた考え方じゃないかと。それがどうも、最近の研究では間違いではないかと思われるのです。

 むしろ、野菜分とか生野菜、私はこのへんの地方ではリンゴをいっているんですけれども、そいうカリウムに富んだものは、むしろ慢性食塩中毒の保護作用があるんじゃないかと。そして、そのようなものを食べるとかえって長生きにつながるんじゃないかと考えています。このことは秋田県と青森県を比べますと、ちゃんと実証されまして、青森県の方のほうが、秋田県に比べて様子がいいわけなんです。要するに、青森県のリンゴ地帯の人々と秋田県の水田単作地帯の人々と比べて血圧のレベルが少し低くて、そして、さっき話がでた、若い「あたり」が少ないという、こいう調査結果を少しまとめているわけなんです。

篠崎:同じ東北地方で、寒さとか塩蔵物を使う点では同じでも、リンゴを食べる、食べないというようなことで違うということですか。

佐々木:ええ。そういうデ−タがあるんです。そいうことに一番最初に気がつきまして、秋田県のほうにリンゴを運んで、実際に農家の方々に食べてもらい、そして血圧を測ったりなんかしたことがあります。

篠崎:いま先生は、慢性食塩中毒という言葉をお使いになりましたけれども、そうすると、たとえば腎臓病などになったときに食塩を制限されますね。それは減塩食といいますけれど、先生のお立場からすると、それは減塩じゃなくて、正常に戻るんだと。

佐々木:私の基本的な考え方は、そういう考え方です。減塩というと何か、ふだん、正常なときには必要なんだけれど、病気だから減らすと、で、減塩食という言葉がうまれてきたと思うですけれど、私は過剰の食塩を普通にもどすというふうな考え方で、減塩食という言葉に抵抗を持つわけなんです。

 同じような意味で、ついこの間、ある新聞に「日本列島慢性食塩中毒論」というのを、田中総理の日本列島改造論にひかけて発表しました。田中総理は新潟の出ですから、新聞で拝見したところによると、水をガブガブお飲みになるというのも、私は食塩をたくさんとっておられるのではないかと拝察しております。

篠崎:それにしても、人間の趣味、嗜好というものを変えるのはなかなか難しゆうございますし、それから、現実の問題として、塩分摂取のもとがつけもの、おみおつけ、そう一足飛びにいかなくてもいいわけですが。

佐々木:それは一足飛びにいかれると、非常に困る。というのは、日本の味噌は非常によいタンパク質のもとになっているわけですね。そういう意味で、一足飛びにいかれると困るんです。むしろ、最近氾濫している、いわゆる加工食品ですね。これはインスタントラ−メンをはじめ、ああいうものはかなり食塩が入っている。たとえば、外国でも赤ちゃんの離乳食の例がありました。これは缶詰め、ビン詰めの離乳食ですね。これに食塩を加えておりました。ちょうど日本人、東北地方の人々がとっているくらいに食塩を加えているということで、一日、一人あたり23グラムくらい加えているというので問題になりまして、大統領に乳児食の再検討をしろ、そして、食塩の追放という勧告がでたんです。数年前、そういう話があったんです。

篠崎:おふくろの味じゃないんですけども、小さい時のそういう味に対する訓練というものが一生を左右することになると、そのへんは問題ですね。

佐々木:問題だと思いますね。動物実験でもあるんです。小さいときに高食塩で育てたネズミは食塩を減らしても、あとの高血圧になってくる、いわばわれわれ、大人には救いのない話もあるのです。

篠崎:今日「高血圧風土記」というなかで、塩以外にもいろいろなファクタ−があるでしょうけれども。

佐々木:ええ。いろいろなファクタ−がありますよ。

篠崎:少なくとも寒さとか、それプラス食塩ということは、高血圧の多い少ないに非常に関係があるということでございますね。好きなものを変えるのは難しいかもしれませんけど、せいぜい努力することにいたします。どうもありがとうございました。

(昭48.2.2.放送,NHK健康百話II,218−233,昭54.)

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