息子からの手紙

 

 ザルツブルグで音楽修行中の息子から手紙がきた。

 いつもなら、宛名は私であっても、内容は家内とのやりとりなのに、めずらしく私宛のものであった。

 もっとも、この8月末に、エジンバラでの国際疫学会議に出席するといってやったので、ヨ−ロッパでの国際線について、あれこれ書いてくれたこともある。

 だが、私にとって興味をそそられたのは、次のようなことが書いてあったからだ。

 「長くこちらに住んでいると色々おもしろい違いがわかります。・・・こちらではお米はあらわない。水みたいなフロに入る。空気がきたないといっていつも窓を開ける。かぜをひいたとき、熱があると、頸にタオルをまいて裸にする。赤ちゃんには甘いものをたくさんあげる。野菜をぐつぐつと煮たス−プがいっぱいビタミンが入っていると思っている。風にあたると頭がいたくなる。テレビを見るときは電気を消す。赤ちゃんをうつぶせに寝かせる。お茶にいっぱい砂糖を入れる。水着がぬれたらすぐとりかえる。水のシャワ−を浴びるとき、日本人だったらまず心臓をぬらすのに、こちらは足からぬらす。

 そうそう、もう一つ、くだものを洗うとビタミンがとれるといって、そのまま皮も食べる。リンゴ、モモ、ブドウ、ナシ・・・

 私の「衛生の旅」の本を送ってやったとき、活字が大きいのが気にいった、と言って来たとき、眼がすこし悪くなったかな、と思いながら、「棒ふり」の職業をえらんではいても、衛生学的に物をみる見方が身についたのかな、と思ったりしたのである。

(日本医事新報,2988,93,昭56.8.1.)

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