キャネル夫人のこと

 

 フレミンガム・スタデイのキャネル夫妻が、秋田から弘前にやってきた。

 「東北地方を訪問して」という座談会の記事をごらんになった方も多いと思うが、脳卒中が多くみられる東北地方の状況を肌で知ってもらおうと、籏野脩一先生が計画された旅行の一部だった。

 「塩・塩・塩」「エブリシング・ソルト」と、秋田の市場で見学したことを話してくれた。15年前はじめて会ったとき、フレミンガム・グル−プは塩には見向きもしなかったが。

 三日間、キャネル夫人はよくしゃべり、ゆかいな日を送ることができた。すこぶる博学であり、子供の写真をとりまくっていた。八人いるという孫のことを思い出してのことかもしれない。世界の子供達の写真のコレクションをみたいものである。

 持参したバナナをさし出したとき、籏野先生が「エネルギ−の補給」といったら、すぐさま「それだけではない、ポタッシウムが沢山入っていると」受け答えた。さすがである。日本のご婦人でこんな答えがすぐ出る人はそうはいないであろう。

 リンゴジュ−スもいいが、リンゴのサイダ−がもっとよい、とボストンの各家庭でやっている製法を教えてくれた。

 「ロングヘヤ−の教授にはじめてあった」といったので、「カバ−・・・」ととっさに次につづく適当な言葉がうかんでこなかったら、”はげ”とか”うすい”と受け取られる英語をすかさずさしはさんで、”ニヤッ”と笑いながら、私にかわって答えてくれた。

 十和田湖へのドライブの車中でのことだった。

(日本医事新報,2959,51,昭56.1.10.)

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