ひとことふたこと

 

 久し振りに女文字の手紙が来た、と思ってあけたら、何と原稿の依頼でした。昨年はプロフィ−ルに紹介されただけですんだのに、今年は「諸君、衛生統計だけではなく、?を聞こうではないか!」というつもりなのでしょうか。

 (注)私の話はとかくこのように飛躍するくせがあるようです。

    この前の数行を理解する為には、北灯第2号27頁をみなければなりません。

”?”とはなんと気をもたせる言葉でしょう。とる人にとってその意味がどうにでもとれる。”ズバリ”その物をはっきりおっしゃい。アメリカだったらはっきり物をいうと思います。充分ドライになった最近の若い女性にしてこのような言葉がでるとは、やはり皆さんは”大和なでしこ”なのでしょう。

 日本とアメリカ。地球の反対側にあるのだから、風物や物の考え方に違いがあってもごくあたりまえかもしれません。

 一寸”何か頂戴!”といった言葉を言おうとした場合、日本人はなんと言うでしょう。この文に示されているように、”何か”を始めに言って、”頂戴”にあたる”ギブ・ミイ”を先に言ったあとから、”何か”にあたる言葉をつけ加えるのが普通です。だから日本人が日本流に”何か”にあたる言葉を発音の悪い言葉で、はじめに言おうものなら、相手の外人は驚いて目を白黒させ、結局、話は通じないことになります。だから”ギブ・ミイ”にあたる言葉をとにかく口の中でも何がぶつぶつ言って相手の注意をひき、次に、”何か”にあたる言葉をあとからはっきりしゃべれば、どこへ行っても話が通じることになります。−−−一口知識−−−−

 でも津軽弁のようにその”物”をさして”ケ”と一言いえば通じるという様な便利な表現は、世界中どこへ行っても通じるのではないかと思います。−−−お笑いの一席−−−

 ところでアメリカへ行って、例えば”温かい牛乳を一杯ください”と英語で言ってその通り温かい牛乳を飲むことが出来たら、あなたの英語は一流と言えるでしょう。こんな簡単な事が何故かって!と不思議に思われるでしょう。だが相手がその事を理解し、行動にうつすまでに、実は色々な問題がかくされているからなのです。

 第一に温かいという”ホット”にあたる言葉が日本人が言ったのではまず通じません。”ハット”にあたるよな発音でなければなりません。牛乳の”ミルク”は日本人の最も苦手とする”R”と”L”の発音の区別があります。その他社会的要因もあります。大体、アメリカでは、牛乳は最早、瓶ずめではなく、皆紙箱入りになっていますし、それはコ−ルドチェ−ンのル−トにのって牛乳はいつも冷たいものになっています。すべてインスタント、人の手をかけることをしない、というより人手のない世界では、牛乳をわざわざ別にとってわかして、サ−ビスするなど思いもよらぬこととして受け取られるでしょう。ホットミルク・ワンと言ってごくあたりまえの日本の習慣通り、相手に言って、話が通じないと怒ってみても、それはこちらの思いあがりというものではないでしょうか。

 だから、”温かい牛乳”、一つ”飲もうと思っても、それを相手に伝えて、実際に飲むことが出来るまでには、大変な努力がいることになるのです。−−−習慣の相違、衛生教育のむずかしさ−−−、自分の良いと思う方向に、相手を変えてゆく仕事、それは簡単のようで、なかなか大変なことといえましょう。

 同じ英語をしゃべる国、アメリカとイギリスの間の一番の相違は何か、という私の問いに、それは”ことば”であると答えたイギリスのドクタ−がいました。その時私は”津軽”と”南部”のことを思い出しました。丁度、ニュ−ヨ−クからロンドンへ大西洋を飛んだ日の出来事でした。エレベ−タ−はリフトになり、ファ−ストフロア−は一階から二階という意味になり、のむコ−ヒ−はテイに変わります。

 われわれからみて、アメリカ人とイギリス人の区別は、一寸つきにくいのですが、それでいて大変な違いを彼らは感じとっているようです。それに比べたら外国人からみた日本は本当に神秘的な国に見えるのではないでしょうか。その中でも東北地方は、ということになりそうです。その神秘的な土地に何があるか。

 そんな所へ飛び出してゆく諸姉らに大いに期待したいものです。

(北灯,3,2−3,昭43.3.1.)

もとへもどる