りんご覚書(その4)

 

 昭和29年以来展開された「東北地方住民の脳卒中ないし高血圧の予防についての研究」は昭和31年私が衛生学講座の教授に選任されてからも引き続き研究を展開できた。その業績は高橋英次教授が始められた弘前大学医学部衛生学教室業績集第1巻のあと第12巻まで別刷りまた学会などの記録として印刷公表できた。

 その中の「りんご」に関する始めの研究については「りんご覚書(その2,3)」に述べた。

 昭和33年4月第28回日本衛生学会総会が熊本大の入鹿山且朗会長のもとで開催された。そして衛生学会としては初めての「高血圧の疫学」と題するシンポジウムが計画され、私にも発表・発言の機会が与えられた。会場は後日の火事で有名になった大洋デパ−トの講堂であった。また学会の手伝いを熊本の女子大学の学生に頼んだらしく、学会のあと、学生から「ファンレタ−」が送られてきた思い出がある。

 私の演題は「高血圧の疫学」(日本衛生学雑誌,13,11,1958.)ということで、まとめとして「以上の諸所見はわれわれの限られた調査成績であるが、食生活・住生活の改善により、高血圧、ことに東北地方の脳卒中ないし高血圧の予防に具体的な方策の一つを与えるものであると思われる。これらの研究は、昭和29年以後弘前大学医学部衛生学教室において高橋英次教授と共に始められ、引き続きなされたもので、費用の一部は昭和30年度文部省科学試験研究によった」と結んだ。

 この学会の時の新聞記事で毎日新聞(昭33.4.9.)は「リンゴ・高血圧予防にいい・佐々木弘大教授の研究」と伝え、東奥日報(昭33.4.9.)は「高血圧にリンゴが効く・弘大佐々木博士発表・日に三つ以上食えば」と報道された。

 食生活の改善には「食塩」が基本的に問題であるとの私の発表ではあったが、それは記事にはならず、「りんご」が記事になった。それは「新聞は何を伝えてきたか」のテ−マではあるが、この情報は日本国内だけでなく、国際的にも広く伝わったようである。「昔から1日1個のりんごは医者を遠ざけるという諺があるが日本のDr.ササキによってその医学的根拠が与えられたと伝えた。

 医学の歴史的展開の中では「高血圧と食塩」との関係は一部の学者によってすでに報告されていたことであったが、「りんごと高血圧」との関係についての研究は前に報告されてはいなかったからと思われる。その中でNaとKとの関係、またNa/K比との関係について論じたのは前がなかったからではないかと思われる。

 青森県内より長野県内のりんご関係業者のほうが反応が早かった。アメリカの国際りんご協会からも照会があった。

 だが私の疫学的研究の展開としては、それまでの成果は「横断的疫学調査」一部「介入」もあったが、りんごと高血圧との関係についてはほんの「手がかり(clue)」であっただけで、その後定年まで「追跡」していかなくてはならなかったのである。(991029apple4)

(弘前市医師会報,268,75,平成11.12.15.)

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