Internationale Sommerakademie"Mozarteum"
モーツァルテウム夏期講習会

日本人の特技?

これはミラン・ホルバート(クロアチア出身の指揮者、ウィーンのORF交響楽団音楽監督などを歴任)の指揮講習会でのエピソード。
夏期講習会は一ケ月ほどつづきます。これはあくまでの一般的な時間経過なのですが、第一週目は日本人の学生はオーケストラに非常に評判がいいんです。それはそもそも日本人は手先が器用な上に、なんといっても例の「叩き」「しゃくい」「はね上げ」・・実はこの私も習ったんですが、これらテクニックで、圧倒的に他の国の学生よりもオケをコントロール出来るんです。
そこへいくと例えばあるユダヤ人の学生は、ほとんど動物園のゴリラ状態、オーケストラもおかしくて演奏が出来ないほどの指揮ぶりでした。しかしこれが第2週目にかかる頃から次第に情勢が変化してきます。
一番印象的だったのは、ある日本人学生がスコアーに丁寧にも先の「たたき」「しゃくい」・・を書き込んでいたのですが、モーツァルトの交響曲の第4楽章(2拍子)はテクニック的には「たたき」しか使わないんです、少なくともその学生の頭には・・そしてしばらくオーケストラが演奏したところで、ホルバート先生は突然その学生の手を止めました・・オーケストラはそのまま演奏をつづけています・・それもさっきよりもいい音で!!「君が手を振らない方がオケがいい演奏をするよ!」
さて3週間目に入ると、例のユダヤ人指揮者は相変わらずの指揮ぶりです。しかし本気でこういう音楽がしたいという真剣な目に圧倒され、オーケストラは音楽を作る喜びに目覚めます。結果は自ずと明らかです。


ワルター・ヴェラーの指揮レッスン

サヴァリッシュ青年のはじめてのオーデション

モーツァルテウム音大夏期講習会には、残念ながら最近はなくなりましたが、戦前から指揮のコースがあり、指揮者を志す世界中の若者が参加しました。正確な年はわかりませんが、1923年生まれのヴォルフガング・サヴァリッシュ(フィアデルフィア交響楽団音楽監督、前バイエルン国立歌劇場音楽監督他)がミュンヘンの音楽大学で勉強をしている頃、おそらく第二次大戦前夜、このモーツァルテウム夏期講習会の名指揮者クレメンス・クラウスのクラスのオーデションを受けました。
世界各国の若者同様、このサヴァリッシュ青年もガチガチに上がって指揮台に登り、ベートーヴェンの英雄交響曲の冒頭のタクトを振り上げました・・Es-Durのフォルテの全奏で・・ジャン!・・ジャン!・・ジャン!!!・・一同大爆笑!!・・なんとそこには2つのフォルテの全奏しかなかったのに、サヴァリッシュ青年は3回も指揮してしまったそうです。・・しかしオーケストラも3回みごとに演奏してしまいました・・絶望的な顔のサヴァリッシュ青年に、このクレメンス・クラウスは・・「君は指揮者の才能がある!」もちろんオーデションに無事合格したそうです。


モーツァルテウム旧校舎玄関、世界の国から
アメリカ、イギリス、マルタ、クロアチア、ポーランド

ニコライエワは女ではない!?

天国のタチアナ・ニコライエワ先生すみません!!
私はこよなく女性を愛する人間のひとりですが、女性のピアニストが嫌いなんです。
例外はあなたとアルゲリッヒくらいでしょうか・・これはおそらく私が指揮者だからで、ピアノという楽器がまず音楽のベースをつくり、その上にメロディーやハーモニーがのる・・ところが女性のピアニストは音楽にのめり込みすぎ、ヒステリックに感じてしまうのです。もちろんアルゲリッヒくらいのめり込んでしまうと、それはそれで大変魅力的なのですが・・ 若干23歳の私は、あなたの弾くリストのピアノ協奏曲のオーケストラパートと、あなたの生徒の弾くピアノパートを指揮する機会に恵まれました。(実際は指揮したのではなく、前で踊っていただけ!)
あの太い音、あのまろやかな音、あのルバート、あの暖かい音・・19世紀のロマン、ロシアの大陸を感じさせてくれたあなたのピアノを、私は一生忘れません。あなたは人間です。



リヒャルト・シュトラウス「ばらの騎士」
ザルツブルグ音楽祭1960~64
シュヴァルツコプフの元帥夫人

シュバルツコプフの真剣勝負

往年の名歌手エリザベート・シュヴァルツコプフ(1915生まれ)のレッスンを覗き、そのあまりの厳しさにびっくりしました。
まず言葉・・一つの単語を30分間でも出来るまで。
つぎに音程・・これほどいい耳を持った歌手を私は知りません。
そして思想・・ちょっとやそっと、それらしく歌っても、彼女をごまかすことは出来ません。歌うということは、人間があり、出来事があり、それが思想となり、テクニックがあり、はじめて人に伝わる・・そんなレッスンでした。
もちろんそこのレベルで本当のレッスンを受けれる人材は限られています。もしどなたかシュヴァルツコプフのニコニコしたレッスンを経験したことがあったら、それは本当の彼女のレッスンではないと思います。殺気立つ、生きるか死ぬか!そんなレッスンでした。
そしてもう一つ感動したのは、廊下の向こうから歩いてくる姿は、正にばらの騎士の元帥夫人そのままでした!!



左からビデオプロモーション藤田社長、
ベルリンフィルのコンマス シュヴァルベ教授、私

あなたのヴァイオリンはすべて間違い!

この言葉を言った、正確に言うと通訳したのですが、言った相手は日本の某音大を卒業1〜2年の女性ヴァイオリニスト、モーツァルテウムの夏期講習会でベルリンフィルの当時のコンマス、シュヴァルベ先生のレッスンでのことです。
これ以上のことでも、これ以下のことでもありません。しかし私達は音楽大学でせっかく勉強したはずの人の演奏、歌などを聞いても感激がない・・そんな経験をよくします。
私なりに原因を探り、ではどうしたらいのかを考えたのですが・・結論は・・少々乱暴ですが「先生の言うことを聞いてはダメ!」ということです。
芸術家になるためには、先生のいいところ、悪いところを自分で判断することも必要だと思います。
またすばらしい先生が必ずしも、ずっとその生徒にとっていい先生とは限りません。
すべては自分の責任なのです。とても印象にのこるこのシュヴァルベ先生の一言でした。

ホロビッツの手にはどうして卵が入っていないの?

これはピアノを習った人なら、だれでも抱く疑問です。取りあえずホロヴィッツとしましたが、これがキーシンでも、ルビンシュタインでもいいのです。テレビで巨匠の弾くピアノの手元を見た子供が、「わたしはピアノを弾くとき卵が手に入るような形で弾きなさいと習ったのに、どうしてみんな手を平らにして弾くの・・?」
お答えします。ドイツで今から100年ほど前に近代ピアノ奏法という本が出て、その中に手の形は・・たまご・・云々と出てくるのです。
結果は・・それ以来ドイツ、そしてそれを受け継いだ日本からはピアニストは出ていません!
もちろん例外はいますが。いわゆるロシアンシュレー、それを引き継ぐフランス(ルービンシュタイン、ホロヴィッツ、コルトー、リパッティー・・)とくらべると、ピアニスティックな差は歴然としています。
わたしはこの「たまご」が間違っているとは思いません。しかしタッチは、あくまでもどんな音を欲しいか!!ということから、本人が探すものなんです。
ワイセンベルグのコースでのひとこまでした。


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