チェリビダッケ指揮の秘伝part1

さあ、みなさんお待ちかねの指揮の秘伝!?を伝授しましょう。
といっても、そんなに秘密のないのがこの指揮の世界です。カール・ベームは指揮は教えることは出来ない、指揮台に立って出来るか、出来ないか!なんていってました。
そんな中で、あのチェリビダッケはずいぶん熱心に指揮法を教えていました、そこでチェリビダッケ先生にご登場頂いて、少しみなさんと研究してみたいと思います。
まず下の写真見てください。そしてその瞬間チェリビダッケが どんな状態にあるかを考えて下さい。

1.何の楽器(グループ)に対して指揮をして
 いるのか?
2.何を求めているのか?
3.それぞれの楽器にアウフタクトをした後か、
 前か?
4.出た音に対して満足しているか?
5.どんな音が欲しいのか?
6.どうしたいのか?

 ・・・まだまだいろいろ考えて下さい。


ここで一番注目するべきことは、左手の表情です。subito P つまり急に小さくするときの典型的な形です。左手の一本一本の指がピンと張っていること、脇が締められていることからわかります。勿論対象はセカンドヴァイオリンに対してです。
今度は右手を観察すると、手のひらが下を向いていることに注目して下さい。日本の指揮法では手のひらを横向きに指揮棒を握り「叩き」で合わせると教わりますが。現場ではこの写真のように手のひらを伏せて手首を堅くして、そして頭をちょっと前に傾ける。手首はほんの1センチくらいの動き・・それによりオーケストラがお互いを聞き合い凝縮する、響きがまとまることをよく経験します。

指揮の秘伝! subito Piano

moderato4/4で次の小節の頭でsubito Pになる場合、3拍から4拍目の裏まで左手をしっかり持ち上げる、そして4拍目の裏(4ト)で瞬間的に上の写真ポジションになる。但しこの位置は弦楽器の位置なので、コーラスや管楽器を指揮するときは顔の前まで持ち上げた手を、4拍目の裏で胸の前にして、手のひらを奏者に向ける。このとき大切なことは全員がsubito Pの際には両手の間隔が広がり、一人の奏者に対しては左手の手のひらだけで十分だ、ということです。
顔の表情も大切で、直前まで「まだまだ・・」「はい!!」
この写真をみてじっくり研究して下さい。これをマスターしたらあなたはもうsubitoPianoのスペシャリストです!

指揮の秘伝インデックス

A

左手の向きに注目して下さい。
低弦の奏者に対してのメッセージです。
手のひらを奏者に向ける基本は「小さく」。
この顔から想像すると「それ以上大きくならないで・・」
右手が相手の目の前にあることは、リズムも「注意!」を呼びかけています。

B


上の写真の発展形です。
いやそうな顔+体を反らせて
「もっと、もっと小さく!
君たちは現象学を理解しないのか
・・・・!?」

指揮の秘伝!?
左手は上体の使い方で倍増する。

上のA.B.の二つの写真は、左手の使い方と上体の使い方に大きなヒントを与えてくれます。
Bの写真で、もしも上体が普通のポジションだとすると、奏者に与える影響はほとんどありません。クビを体の外側に出し、本当にいやなものが出てきた顔の表情とともに効果倍増です。
また左手を胸の前に出すことは、「あなた達がそのように演奏すると、私のこころが痛みます・・」みたいなことを暗示できます。
先のsubito Pの項でも書いたように、出た音に対してAからBになる早さがより早いほど、演奏者に対するアピールは高まります。
もしAからBに一瞬で変わると、たいていの奏者はびっくりして小さくします。
もしもそのまま演奏している人がいたら、よほど指揮を見る習慣のない人、普段から指揮者なんか気にも止めていない人です。
裏返せば、普段指揮をしている「あなた!」が悪いのです。

指揮の秘伝インデックス

管楽器のアインザッツあれこれ

まずは目で!か〜るく、ひょいっと!

A

すべては目から!

アインザッツの基本は目です。
日本人はとかく器用なため、それぞれの楽器のアインザッツを指揮しすぎる傾向にあります。
もちろん基本的にはそれぞれの「入り」は指揮するべきなのですが、
それが指揮者の「かっこつけ!」ではいけません。
ここでチェリビダッケはそれぞれの段階に応じたアインザッツを示しています。
上のAの写真はまず眉毛!に注目して下さい。
ちょっと上を向いて、眉間をちょと上げて引っかける様子がわかります。
またこのときの指揮棒の向きは絶対に奏者を指してはいけません。
以前ウィーンフィルのベートーヴェンの交響曲の練習で、木管のソロを鼻息まじりの「かっこつけアインザッツ」をした指揮者を見ましたが、あっという間に譜面台が高くなり、奏者は下を向いて演奏しました。
オーケストラの奏者の立場からすると、まずは目で十分です。


B

緊張の糸

肩、ひじ、左手の指先までピーンとつながる緊張の線、突き出したあごに注目して下さい。
これはソロのメロディーのアインザッツより、むしろそのメロディーの緊張した糸を保持するようにとの指示です。
管楽器はこのように左手で緊張を保持されると、息のコントロールでメロディーが沈まないように保持します。
この後瞬間的に左手のひらを相手に向け、ひじを横に張ることで、先のsubito Pianoになります。
指が一本のところからみると、木管楽器のソロを指揮しているところです。

指揮の秘伝インデックス

ここぞ!全体を突き抜けるように!

C

指揮棒はいらない!

指揮の教科書には絶対載っていない瞬間です。
一曲の間に一回だけ、それもいつもではなく、ここぞと言うときに取り出す必殺技です。
全体が盛り上がり、その中でもそれを突き破ってほしい場所。金管楽器、それもトランペットのような直進性のある楽器、あるいは木管の主席に対して効果的です。
指揮棒は物です、指揮者の心と演奏者の心を一つにしたい瞬間、この「物」が妙にじゃまになる、よそよそしく感じる時があります。
その時は思い切って指揮棒を捨てて下さい。
もしも自然にそれをしていたら、あなたはマエストロです。
直感こそがすべてです。


チェリビダッケ指揮の秘伝Part2はこちら

ここで使用している写真は、1990年ミュンヘンフィル日本ツアー紹介パンフレットから無断借用しています。ごめんなさい。

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