「りんごと健康」出版の記憶

 

 停年のときの挨拶に「」をもっていますと云って、自宅に「りんご健康科学研究所」と勝手に名前をつけましたが、初仕事として「りんごと健康」を第一出版から刊行したことについての記憶を書いておこうと思う。

 すでに「りんご覚書」(1-6)や「りんごを話題にした文章」ほかいくつか書いたが、それに書かなかったことを書くことにする。

 現役で研究をしていたときには、「original」(原著)とか「priority」(第一)とかを考えていた。学問は日々新たにであるという感覚があり、それを誰がやるかと、競争の世界であると考えていたし、自分も何時かその中に入りたいものだという思いがあった。

 だから研究上の成果が上がってきたときには、まず国際的に通用する雑誌へ投稿することを考えた。それには慶應にいた頃から見聞きしていた、「医学と生物学」という速報雑誌があった。緒方富雄先生が関係していた雑誌で、「Chemical Abstract」にその抄録が採用されていた。これに載れば世界の学者がみてくれるものと考えていた。

 COの研究をやっていたときにも、例えば北川先生のCO検知管が出来たときにも、それを応用して、「血中COHb測定法」などを報告したこともあった。

 「東北地方住民の高血圧や脳卒中の予防に関する研究」を始めたときにも、いくつか速報した。

 その中に一つに今や古典的と云われたことのある「東北地方農民の血圧と尿所見特にNa/K比との関係について」(医学と生物学,39(6),182-187,昭31)がある。

 りんごとの関係では最も早い報告で、自分では大事な報告という意識がある。

 所謂原著論文は、英文が苦手であったし、すぐ翻訳してくれる人もおらず、英文で時間をとられるより日本語のほうがどんどんかかけたので、外国の所謂権威のある雑誌には投稿はしなかった。

 でもわが国で「Japanese Heart Journal」が刊行されることになったとき、編集をやっておられた上田英雄先生から、丁度私が学会で発表し話題になっていた「食塩」の問題について書くように依頼があって書いた(1962)ことがあった。

 それが刊行されたら「Geriatics」(1964)からも依頼があって書いたことがあった。

 やはり英文は良く読まれたし、今とは時代が違うと思うが、別刷り請求が世界各地から殺到したので、何方が「食塩」とか「高血圧」に興味を持っているかが分かり、在外研究の機会がおとずれた時には、別刷り請求をしてきた方に直接会ってということが主な目的にしたことを思い出す。

 あとの「疫学的な論文」は「弘前医学」へ教室の業績として掲載し、高橋英次先生が初められた「業績集」を2巻から12巻まで刊行することができた。国会図書館はじめ主な大学へ送付した。誰かが見てくれれば幸いであるといった位の軽い気持ちであった。

 一般向けの文章は依頼があれば書いたが、「図書」とか「教科書」といわれるものは自分では書いたことがなかったが、共著ではいくつか書いた

 「食塩と栄養」(昭55)は菊地亮也君と共著で第一出版から刊行したことがあった。丁度「食塩」の問題が話題になったころであった。そこで第一出版との関係ができた。

 第一出版は栄養方面の本が多く出版されていたし、「りんごと健康」(1990)ついで「食塩と健康」(1992)についての本を刊行できたことは幸いであった。

 コンピュタ−が一般化し始めたころであったが、「検索」で「apple」と入れれば、殆どコンピュタ−のことで、「health」は殆ど出てこない時代であった。

 本の名前は「りんごと健康」(Apple and Health)と附けたが良かったと思っている。著作権登録されているが、大学で「opac」で検索すると私の本一冊でてくる。

 地元の基幹産業であった「りんご」と関連のある「りんごと健康」は、東奥日報に大きく報道されたこともあって、広く迎えられた。

 多くの方々から「読後感」をよせられたが、その一部を転載させて戴こうと思う。多くの手紙の一部のみで責任は私にある。すでに亡くなられた方々もおられるが、お許しいただけるものと思う。

「りんごと健康」を読んで

 

1)随筆集のようであり、専門の学術書のようでもある、非常にスマ−トな、巧みな編集と書き方に感服して居ります。それこそ「洛陽の紙価」と「つがるの声価」を高めてくれる好著と、わがことのように喜んでいます。  (品川信良) 

2)食塩と血圧・脳卒中からりんごとのかかわり、大変読み易く引き込まれる様に一気に読ませていただきました。この業績は永く語りつがれることと信じ御同慶に至りと存じます。 (佐藤雄治)

3)項目を分けて分かりやすく書いてあり、長年にわたる研究の集積がよく分かります。専門家が読めば更に深く示唆を与えられるものが多いでしょう。 (佐々木正亮)

4)ペ−ジをめくると色々と面白い項目が並んでおり、之から少しでも健康に生きる為、座右の本としてくり返し読みたいと思っています。  (野口昌彦)

5)この著書は先生のライフワ−ク血圧を側面から述べておられるので、改めてじっくり読ませていただいております。ギリシヤ神話から書き初められて、正にりんごのロマンとでもいったら良いでしょうか、本当にりんごの種々なことが書かれているようで楽しみです。 (遠藤正彦)

6)りんごの良さを新めて見直すとともに、その歴史の面白さにもびっくりしました。 (大高道也)

7)りんごについての文献やギリシヤ神話、そして文学作品から、とてもゆたかで、すばらしいご本をよませていただいております。 (津島律)

8)文中小生の仕事も紹介いただき感謝に耐えません。誰にでも読み易く、理解できる健康読本として私からも宣伝させていただきます。先日のお昼、橋本教授との雑談の中で、まだりんごによる皮ふ炎をみたことがないということになり、なる程と思いました。多くの植物が(果実)皮ふ炎をみるのに、りんごは私もまだ経験がなく、最も安全な果物と言えるかもしれませんね。  (花田勝美)

9)「りんご博士」として今後益々の御活躍を期待しています。 (橋本功)

10)啓蒙と学術を兼ねた好著で大いに推薦させていただきます。 (重松逸造)

11)この度は「りんごと健康」と題する新鮮な感じの随筆をお送り頂き誠に有難うございます。弘前時代の過去を想い出し誠に懐かしく存じられます。 (高橋英次)

12)弘大の創始の頃を思いだします。五十嵐・・・・・・下瀬川・・・・・中谷敏三は小生の東北大同級生です。色々有難う御座いました。  (松永藤雄)

13)先生がいつかはこの様にまとめられてリンゴの本をお書きになるだろうと期待しておりましたので、大変嬉しく頁をめくっております。私共の研究なども引用なさって下さり有難うございます。私も講演を依頼されるままによくリンゴの話をいたしております。そのような時にも座右の参考書となります。十分に活用させて頂きたいと存じます。 (吉田豊)

14)どの項目も懐かしく読ませていただいております。表紙も内容とよくマツチしていて、何となくりんごを食べたくなる感じでした。これ一冊でりんごと健康についてはいいつくしているのでないかと思います。  (福士襄)

15)一つのことを続けて研究なさること、そしてこれが役立つこと、すばらしいことでございますね。    (東畑朝子)

16)りんごは大好きでよく先生のりんごと脳卒中のお話を御紹介しておりましたが、これで一層自信をもって語れます。内容も神話や名前の由来から始まり、栄養素、脳卒中等の病気との関連からりんご労働や農薬に至るまで全部文献つき、すばらしい御本です。ずっと手元において参考にさせていただきます。  (香川芳子)

17)先生の大成された高血圧の疫学とりんごとの関係が分かり易く、またきれいにまとまっていて感銘を受けました。 (相沢好治)

18)青森県の基幹産業であるりんごに深い思いを寄せている者の一人として先生のご出版、誠に有難く嬉しく存じております。  (下田敦子)

19)近頃売名者の多い中で、深い学問と福祉が貴い実を結んだ感銘です。 (波多江久吉)

20)小生も先生のお説を実行しているひとりで、お蔭様でなんとか無事で過ごしています。 (小野慶一)

21)先生の長年の御研究の側面をりんごを通して理解出来ますので、健康教育に大変よいと存じます。 (家森幸男)

22)先生でなければ書けない記事が一杯盛られていて、医者はもちろん、一般の人達にも感銘深い著書だと存じます。先生のように研究と啓蒙の本当に少なく、したがって貴重だとかねがね思っておりましたが、そのみごとな見本を見せて頂き感謝しております。 (秋山房雄)

23)大変分かり易く書かれており、一気に拝読致しました。学問を一般の方々に理解してもらうのは大変難しいのですが、この本で、この目的は達せられたと存じます。  (松木明知)

24)先生が歩んでこられました成果が、広く理解されるものと思います。私共の今後の研究に参考にさせて頂くつもりです。  (小野寺庚午)

25)手ごろな本で余り肩苦しくなくしかも文献がのっているので勉強しやすい本だと思いました。  (木村然二郎)

26)津軽百年の名産「りんご」が先生のわかり易く、且つ科学的証左に基く分析により、益々貴重な果実として一段と脚光をあびることになると思います。またりんごをつくる農家の人々にもまた新しい希望と誇りと自信を与えることになると存じます。「あっぷるぶれいく」には感心し、ここはよく読みました。特に昭和三十年、秋田の田舎道を血圧計をリヤカ−にのせて・・・には、先生の原点があるように思われ、しばし写真にみとれました。  (石戸谷欣一)

27)興味深く拝読いたしました。部屋の若い人にも読ませようと思っています。  (鈴木継美)

28)特定病因論を否定して、新しい病因論の始まりであることを期待して、読ませていただきます。  (豊川裕之)

29)二十三項目にまとめられ、主婦の方々にも大いに利用される一口メモ的ですね。生活に密着した先生の学問につよく心を打たれました。  (黒田政文)

30)いつもながらの御健筆で読みやすく大変興味深く拝見しました。対象を一般むけに設定されたものと思われますが、御意図のとおりまさに普及本でありどんな人々にも理解されやすく、興味をそそられるものと確信致します。いままで「りんご」が健康に良いと宣伝されてはいますが、成書として世に問われたものは殆ど無く、医学者が真正面からりんごそのものを俎上にあげ、あらゆる角度から解明した本は全く無かったのではないかと思います。しかもこのような普及本(それは決して程度が低いなどと云うことではなく寧ろ価値の高い貴重なものですが)には殆どみられない引用、参考文献が詳細に項目ごとに付記されていると云うことは著者の真摯な人柄と読者への思い遣りの深いことを印象付け、述べられていることへの信頼を高めるものとしてこの本の大きな特徴をなしています。広く国内全般に読まれるものと期待しています。  (小野淳信)

31)一読して論旨明解、すらすらと読める名文貴兄ならではの作と感服いたしております。わが家では貴兄の説に従ってなるべくリンゴを食するようにしており、加えて私の嗜好でバナナを加えて食卓を賑やかにしております。 (平尾正治)

32)大変嬉しく読みました。科学的の根拠をなるべくはっきりさせ、素人に納得させる方策をとられたのは賢明でした。 (山形操六)

33)ご記述が分かり易く明快であるに拘らずアカデミックなデ−タと多数の貴重な文献が添えられておりますのを拝見いたしまして、あらためて敬服の念を深くしております。「あっぷるぶれいく」のコ−ナ−は卓越したアイデイアと感服申し上げます。  (福士主計)

もとへもどる