麻疹”はしか”についての記憶

 

 関東地方で「麻疹」が流行し、東京の大学での”全学休講”が話題である。

 麻疹(ましん、英Measles)はウイルスによっておこる感染症であるが、その言葉の由来とか、医学的な事項についてはここではふれない。私には”はしか”という言葉の方が記憶がある。

 子供のころ、”はしか”は、「誰でもかかる」「小さい時にすませた方かよい」といわれていたと思う。実際私の場合は小学校に入る前に、6つ違いの兄と一緒に”すませた”らしい。そのせいだと思うが小学校は殆ど無欠席であった。6年生の時だったか、日曜日が出校日であったのに”ねすごして”その日1日だけ”欠席”だった苦い思い出がある。

 大きくなって医学部へすすんだ頃、「”恋”は”はしか”のようなものである」という言葉を聞いた。その”こころ”は”誰でもかかる”であった。

 イギリスの女王の戴冠式の時だったか、日本の天皇の代理として皇太子が訪英されることになったとき、深窓に生まれ育った方に”免疫”がないだろうから病気になられたらといった話題があったことがあった。

 そのうち”はしか”は早くかかれば軽くすますといった考え方が否定されるようになったと思う。 その理由は”はしか”にかかればそれなりに種々合併症がおこり、それよりは”予防接種”(感染症を予防する目的でワクチンを生体に投与する医療行為)が推奨され、当時の予防接種法の中の一つに加えられるようになった。そのために”はしか”の流行は減少してきたといえる。麻疹については最初のワクチン開発は1964年であり、現在は麻疹の予防接種は”努力義務”になっており、また学校保健法では解熱後3日を経過するまで出席停止の措置がとられるようになっている。

 ところが医学的(免疫学)の立場からいえば、一般的に”麻疹は一度かかればその免疫が一生つづく”といわれるが、予防接種の場合にはその免疫の出来ぐあい、程度が弱いといわれている。また流行がなく、接種を受けなければ、免疫ができるわけはない。そこに今回の問題があるように思われる。

 予防接種で記憶にある出来事といえば、昭和33年4月に予防接種法の中でヂ(ジ)フテリアの予防接種が訂正・追加になったことには、「うらばなし」があることだ。

 このことについては「コホ−ト分析とその実例」(保健の科学2.5:148-149, 1960)に紹介したことがある。

 昭和23年11月に京都でジフテリアの予防接種による罹患者934名、死亡67名という大惨事が発生し、その事件のあとわが国の生物製剤製造について検討が重ねられたが、その結果わが国の予防接種は一時停止状態になった。ところが昭和27年まで減少傾向にあった患者が、昭和28,29と急増しはじめたのである。それは昭和23年生まれの子供であることが判明したのは「コホ−ト分析」の成果であったので、実例の一つとして紹介したのである。

 「コホ−ト分析」の重要性はまだ十分世の中に認識されていないという思いがあるので、今回の事件が「コホ−ト的」に考えれば十分理解されることなので、書いたのである。(20070523)

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