戦後50年

 

 弘前大学医学部も青森医専から数えて50年を過ぎた。

 青森で、初めて近藤正二先生が「衛生学」を講義されてから、50年が経った。リュックサックに「人参とオロシガネ」をもって旅行されていた先生が今生きておられたら、「ベ−タカロチン」の宣伝にもてはやされていることだろう。

 戦後研究生活にもどって50年、色々なことがあった。

 昭和三十四年四月、日本医学会総会が東京で開かれ、翌日の朝日新聞は「高血圧と塩は無関係」と伝えた。「食塩過剰摂取の疾病論的意義」を今でいう「疫学的研究」から考えていた時だったから、日本医事新報に「食塩過剰摂取説の批判の批判」を書いた。

 「みそ」が悪いと言ったことはないのに、そのように新聞には書かれた。「カリウム説」が一般化すると「みそのナトリウムは成熟するとカリウムになる」と言ったりする人が出た。

 「今や高血圧に食塩が悪いのは常識」と言われる世の中になったら、今度は外用の「塩もみ美容術」が流行した。と思っていたら、この十月創刊の健康誌の標題に「危険・塩は肌を荒す」とあった。

 「りんごが高血圧にいい」と報道されたのは昭和三十三年四月であるが、近藤先生から、りんごだけ食べていいとは言わないでしょうね、と念をおされた。

 「りんご一日一個で健康を」が私の研究のまとめとしての「健康句」の一つだが、最近「りんごダイエット」とか「すったもんだがありました」が登場した。

 私の習った生理学の林 髞教授の発言として「米を食べると頭が悪くなる」と伝えられたが、「先生はそのスピリツトがお好きなのだから」と座談会でひやかされいた。

 色々あったが戦後50年、若い働き盛りで脳卒中で死亡する人は、この東北地方でも少なくなった。その死亡を予防することが研究の目標であったからよかった。そして日本食は長寿に通じる道と言われるようになった。

 「癌研究のほとんどは役立たない」と最近毎日新聞は伝えたが、計算してみると、働き盛りの人の癌死亡は胃癌を別として少なくなっていない。   

日本医事新報,3689, 64, 平成7.1.7.)

目次へもどる ホ−ムペ−ジへもどる