いつまでも元気でいたい

 「解説・現代健康句」(津軽書房)

 

 人生にもしもこうだったらということはないにしても、田中角栄元首相が脳こうそくにならなかったら、また近くはソニ−の盛田昭夫会長が脳内出血で入院されなかったら、世の中はどのように変わっていたのであろうかと思うことがある。

 私がこの弘前での研究生活に移った昭和29年当時、日本のとくに東北地方の働き盛りの人達が他の国、日本の他の地方の人達と比べて、数千人も早く若く脳卒中で死亡していた。しかしその問題意識もなく、「あだり」は運命と考えられ、今いうリハビリもなく、まして予防など全く考えられていない時代であった。昭和30年、30から59九歳の中年期脳卒中死亡率が東北6県では人口10万対156、四国では74であった。

「あなた確率を信じますか」

 

 昭和34年4月日本医学会総会が開かれ、翌日の朝日新聞は「高血圧と塩は無関係」と伝えた。食塩は高血圧には無関係で過労が問題なのだというそんな時代であった。 

 そんな時代にわれわれはこの津軽を中心に「だまって座ればピタリとあたる疫学」的研究を展開し「食塩の過剰摂取の疾病論的意義」を示し、「りんごはベネフィット・ファクタ−(BF)」を証明してきたのである。

 「塩少々より少塩」

 「一日一個のりんごで健康を」

 「これからはRF(リスク・ファクタ−)よりBFの時代だ」

 

 「病は世につれ 世は病につれ」

 時代はかわった。結核から癌へ。

 「癌出来つ 意気昂然と 二歩三歩」と世界に先駆けて人工癌をつくることができた山際勝三郎教授の時代から、いまは日常生活で予防を考える「ガンには十二ぶんにお気をつけください」の時代になった。

 そして

 「太りすぎるな タバコを吸うな 歩け 歩け ただ歩け」の時代になった。タバコはやめる工夫が必要である。

 また「地震 かみなり 火事 エイズ」の時代でもある。エイズについては正しい知識が必要である。

 

 でもいずれは人は死を迎える。そしてわたし自身「マ−ジャンで 親のぼけ度を 診断」されている年齢になった。

 そうはいうもののいつまでも元気でいたい。医学部をでて、医師の免許証をもってはいるが、病気にならない方がよいと思う。

 弘前大学教授として長らく衛生学を担当し、いま東北女子大学教授として健康科学を開講し、青森県の「生き生き健康県民運動」で「りんごの花びら 五つの実践」を推進している身にとっては健康につての知恵・考え方を「現代最高の知識水準」で皆さんにわかって戴きたいと思う。

 科学的証拠にもとずいた健康についての知恵の凝縮された「句」の解説という形で「解説・現代健康句」を弘前市の助成もうけて津軽書房から出版したのである。

                (月刊弘前, 175, 4-5, 1994.2.)

目次へもどる ホ−ムペジへもどる