食塩をめぐる人々

 

 西野忠次郎先生らの「脳溢血」の中で衛生学的研究をやられた近藤正二先生は、日本中を足で歩いて「長寿」の要因として食生活の重要性を述べ、お米の大食が食塩の過剰摂取をもたらすことを指摘されたことでも知られている。

 しかし、先生の頭の中では食塩はそれほど重要とは考えられてはいなかったらしく、そんなことを書きましたかね、と言っておられた。ただ、私がりんごのことを発表したとき、わざわざよってきて、「りんごだけ食べていればよいというのではないでしょうね」と念を押された。

 私が教授になりたての頃に、食塩に疾病発生論的意義があるかどうかについて日本医事新報誌(1955,10−12,1961)上でやりあった千葉の福田篤郎先生も亡くなった。生理学と衛生学との違いを考えるきっかけを与えられたが。

 胃癌に食塩が関係ありそうだと言い出したのは公衆衛生院の佐藤徳郎先生であったが、若いうちに亡くなった。脳卒中とか高血圧には食塩は関係がないと言いはった。

 食塩は1日15グラムは必要ですと、主張もし、百科事典にも書き、TVなどで活躍されていた川島四郎先生も先日亡くなった。

 血圧の連続分布を指摘したピッカリング大先生は、食塩説には否定的で、よほど塩ずきだったらしく、自分の幸福をうばうのかといっていたが亡くなった。

 食塩と高血圧との関係でS型R型を指摘したド−ル先生も亡くなってしまった。

 かくいう私も、あとでなんて言われることか。

 血圧論とか食塩文化論などといっていたのが、実は高血圧の成因はファクタ−Xであったなどといわれる日がくるのであろうか。

 先日のTVをみていたら、みその中のナトリウムは成熟するとカリウムになると言っていたのには驚いた。これではまだ死ぬわけにはいかない。

(日本医事新報,3300,97,昭62.7.25.)

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