子どもと塩

 

 昔の「おふくろの味」は塩分過剰

 

 俗に「おふくろの味」という言葉があります。

 子供のときにいつも食べていた母親の手料理の味が、どうしても忘れられない、懐かしいという気持ちが、こんな言葉を生みだしたのでしょう。

 確かに、ときどきそういう気持ちになるのは無理からぬことでしょうが、「おふくろの味」しか受付けないというのでは困ります。

 伝統的な日本の料理には、いつも食塩のとりすぎという問題がつきまとっているからです。

 とりわけ小さな子供のいる家庭では、この点を十分に気をつけていただきたいのです。

 

血圧の高、低は3歳児でわかる

 

 言うまでもなく、食塩のとりすぎは血圧の上昇につながります。

 この血圧の変化を、一人一人について、年を追って調べた結果、次のようなことがわかってきました。

 年のわりに比較的血圧の高い30歳代の人は、40歳代、50歳代となるにつれて、さらに血圧が高くなる傾向がありますが、これに対して、血圧が低めの人は、年をとってもそれほど血圧は上がりません。

 その点については、20歳代の人を追跡調査した結果も同じことでした。

 はたして、何歳の時点で、血圧が目に見えて上がる人と、そうでない人を区別できるのかという疑問をとくために、中学生、そして小学生と、どんどんさかのぼって調べてもました。

 その結果、もうすでに、3歳の時点で、将来血圧が明らかに上がる子供と、上がらない子供が区別できるということがわかってきました。

 図1をみて下さい。同じ子どもの3歳のときと、6歳のときの血圧を点で示してみました。ちょっとわかりにくいかもしれませんが、統計学的には深い相関関係が認められれたのです。

 ともかく、おかれた環境が同じでも、個人一人一人をとり上げてみると、血圧が年齢とともに上がってくる人と、それほど上がらない人がいて、その区別は3歳の時点での血圧から判断できるということが明らかになったのです。

 

赤ちゃんは薄味で育てよう

 

 環境を変えること、すなわち、まず食塩の摂取量を減らすことが第一に必要です。

 大人は、長年習慣となった味付けにどうしてもこだわってしまいがちですが、子供の場合、そんなことはありません。

 赤ちゃんは、母乳で育てるべきか、粉ミルクで育てるべきかという大論争がありましたが、少なくとも母乳には、ナトリウムとカリウムがほとんど同じ量づつ含まれているという長所があります。

 それでは、なぜ、ナトリウムとカリウムの摂取量の割合(Na/K比)が大切なのでしょうか。

 図2をみて下さい。Na/K比が高い、つまり食塩(塩化ナトリウム)が相対的に多くとればとるほど、血圧の高い人がふえてくるのです。

 ところが、離乳食は違います。缶詰などの入っている市販品には、食塩があまり含まれていないようになりましたが、お母さんが作る場合には、どうしても大人の味付けに合わせてしまうので、食塩をすくなからず使ってしまいます。

 実はこれは大問題なのです。

 かって、アメリカのメネリ−博士は、「食物に含まれる塩」と「食物に付け加える塩」との区別をつけるべきだと述べました。まだ、味の好みというものがない赤ちゃんにとって「食物に付け加える塩」は、はたして必要なのでしょうか。

 図3を見てください。弘前市の女子短大生に、0.2%刻みの濃度の食塩水の中から、最もおいしく感じられるものを選びだしてもらったものです。

 一口に塩味といっても。人それぞれ好みにバラツキがあります。しかも、1959年には1.37%ぐらいの塩味が好まれていたのに、20年後の1979年には1.10%くらいのものが好まれるようになってきています。

 塩味の好みは、決して絶対的なものではないのです。

 このことからみても、子供のときからの食習慣、特に塩味の好みがはっきりしてくるといわれる3歳ごろまでの食習慣が、いかに大切かよくわかります。

 小さい子供に大人と同じ味付けのものを食べさせるのは、もってのほか、新しい「おふくろの味」をつくりだそうではありませんか。

 また、すでに塩味の好みがはっきりしている子供には、将来の血圧の上昇を少しでも抑えるために、塩けの多いスナック菓子などに、むやみに手をださないように、十分に注意してあげましょう。

(減塩食,54−55,昭58.)

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