米食民族と高血圧(対談)

 (昭和53年11月25日日本医師会企画全国米穀配給協会提供の米食民族の国民栄養講座の一つとして日本短波放送で放送)

佐々木:きょうは、米食民族と高血圧というテ−マで、小町嘉男先生(大阪府成人病センタ−集検第1部長)と対談することになりましたが、お米を食べる日本人には高血圧が多いという話、またお米を食べ過ぎると高血圧になるんではないかという考え方が、一部にあると思うんですけども、このような問題をどう考えたらよいか、最近の研究を通じてお話し合いできればと思います。

小町:そうですね。

佐々木:はじめに、いつ頃からお米と高血圧なんていうことがいわれてきたか、ちょっと歴史的に検討してみたいのですが、日本では昭和16年1941年ですが、脳溢血−当時は脳溢血といっておりましたね−脳溢血の系統的な学術研究が始まっています。その時に、先日お亡くなられました近藤正二先生が・・

小町:東北大学の・・

 

米の大食は食塩の過食に

佐々木:ええ。その近藤先生が、脳溢血の成因に関する衛生学的研究、これは現在の言葉で言いますと、疫学的研究といえるかと思いますが、それを発表されています。 今読みますと非常に重要ないろいろな点を言われてると思うんです。

 先生は全国各地を歩かれて、特に秋田県辺りで若い人で脳溢血が多くあるとか、それから現在の記述疫学でいう成果、いろいろそれに関連のある因子を述べられておられます。その中にお米の大食ということに触れられているわけですが、そのほか遺伝素質とか気候とか、どぶろくの飲み過ぎとか、また海藻がよろしいとか、そして食塩の過食と、こんなことが書かれてありまして、これはやはり日本の農民の生活にみられる特徴じゃないかと思うんですけれど・・

 それで、先生の書いた最後のところで、こういう言葉を言われているんです。「なお一つ注意すべきは、米の大食が食塩の過食を伴ふことである。米の大食は即ち米の偏食を意味し」−−ことに7合以上ですね−−そういう「大量の白米食を食する為には自然塩辛きものにて口を刺激することが必要となるので、栄養上身体の要求するより遙かに多くの食塩を食用する食習慣を作る結果となる。之が脳溢血の成因に対し恐らく間接的に関与するもとと思ふ」と。こういう推論を述べられているわけです。そのへんかスタ−トになりまして、日本の脳溢血と高血圧の研究が始まったと思うんですが、非常に多くの学者がその後、血圧を測ったり、あるいは食塩を測定したりしました。

 

 ごはんを沢山たべることと味噌汁を沢山のむこととは関係がある

          味噌汁

        1-2杯  3-4杯

ごはん  1-2杯   232   46   278

     3-4杯   250   278   528

           482    324   806

       X2 =98.74,  自由度1,  P<0.001  

     (東北地方住民,40-59歳,男女)(1回の食事のときの杯数)

 

表は昭和33年に第28回日本衛生学会のとき始めて「高血圧の疫学」について、シンポジウムがもたれたとき発表した資料です。東北地方の人々がごはんを沢山たべている様子がわかりますし、またそれは味噌汁をのむ杯数にも関係があることを示したものです。その味噌汁の食塩濃度が 1.5%で、食塩が沢山入ることがわかります。そんなことで私自身はその中で、特に食塩というものにたいへん興味を持って追究して、20数年たってしまったんです。

 もう一つ、お米と高血圧でちょっと話題にしなくてはならないのは、ちょうど戦時中、1944年、日本にはその文献がなかなか入らなかったのですが、ケンプナ−が提唱した、お米で高血圧を治そう、といういわゆるライス・ダイエットというものですね。これも歴史的に意味があると思うんです。

 小町先生は、地元の大阪での研究のほか、秋田との比較とか、過去20年間、特に計画的な、詳細な、プロスペクテイブ・エピデミオロジイカル・スタデイといわれている追跡的研究をやられました。また日本各地での研究をいろいろまとめられたとか、最近はWHO(世界保健機構)の研究にも関与されているので、最近の研究を通じまして、お米、あるいは米食民族と高血圧ということで、どういうお考えを持っておられるかというあたりから、お話を始めたらと思っております。

小町:米が高血圧に直接響くという証明は本当は何もないんですね。昔から経験的におそういうことが言われているわけで、アメリカ人と日本人をいろいろ比較しても、血圧の高い人の率はどちらが多いかというと、べつに日本人だけが飛び抜けて高血圧の人が多いというわけではありません。アメリカ人にも結構高血圧が多いわけです。

 しかし、脳卒中になる率はアメリカ人は少なく、日本人は多い、。このあたりがだいぶ違うわけです。直接証明はされませんけれども、佐々木先生も以前、戦争中あまり食べ物がたくさんなかった時に脳卒中がへっているという発表をされていますが、その時は恐らく血圧もある程度下がっていたんではないかと想像はつくわけですね。高血圧と脳卒中の結びつきということからいきますと、戦時中ですから詳細な記録はないんですが。

 そういうことを考えてもますと、ちょっと大胆かもしれませんが、血圧の高いのを維持するということは、何かやはりエネルギ−が要るわけですね。今、近藤先生のお話に出ましたように、戦前の日本人は、7合ぐらいごはんを食べていたということですが、確かに秋田あたりを調べますと、二番わっぱというのが7合入るんですね。われわれは全部調べましたけれども、そういうのがやはりあります。1日に7合は一度にではないでしょうが、それを持って山へ入ったりして、1日かかって食べて帰ったということになると、かなりのカロリ−になりますね。

佐々木:わっぱというのは先生、お弁当箱のことですね。

小町:ええ、杉の木で作った弁当箱ですね。それを持って入ったというのは、かなりの高カロリ−のを食べたということで、これはやはり血圧レベルを高く維持するための、一つのエネルギ−源になったんだろうと思うんです。それに対して欧米人は脂肪を沢山食べておりましたから、それがエネルギ−源になって、やはり血圧を高く維持することになっているんじゃないかと考えるわけです。勿論まだ学問的に詰められたものではございません。しかしお米が必要以上に悪者扱いにされたということは言えると思うんですね。

 体を維持する、運動していくためにはある程度のエネルギ−を、カロリ−をとらなければいけない。それを何からとるか、どれだけ適切にとっていくかということが問題です。自然界のもは何でもそうだと思うんですが、必要なものは必要である。しかし少なすぎてもいけない、多すぎてもいけない、その中間にいわゆるオプテイマムな値があるんじゃないか。こういうわけで秋田とか大阪、あるいは高知の人、これはいずれもカロリ−オ−バ−になる可能性のあるものを含んでいるわけです。農民の方はお米を沢山たべた、お酒を沢山のんだ。それから都会の人は最近では食生活が非常に都会化して、それでカロリ−が多くなる。お酒も沢山飲みます。ですから簡単にいえば昔から高血圧になる素地はあるわけです。それが最近では血圧の高い人の率とか、高血圧の程度が下がってきてますね。

佐々木:最近はですね。

小町:はい。私が秋田へ行った最初の頃、初めの血圧計がつぶれんじゃないかと思いました。200を越える人が多いのですね。最大血圧が220、230・・・どうもこの血圧計おかしいなと思って、たたいたりしたことがあるんです。だが、それはそうではないんで、血圧計はこわれていなかったんです。今そんな高血圧は見たくてもほとんどなくなったですね。

佐々木:非常に少なくなってきたといいますか、変わってきていると思いますね。

 

必要なエネルギ−を適切に

小町:ですから、それは必要なエネルギ−を適切にとるようになってきた、ということが伏線としてあるのではないかと思います。それ以外に肉体労働の減少、これは大きいですね。肉体労働が減少したから必要カロリ−が減って、あまりたべなくなってきたというわけです。

 しかし、だからといってお米を食べ過ぎた、お米だけが悪いんだということではないので、何を食べ過ぎても悪いと思うんです。また、何を食べ足りなくても悪いと思うのです。ですから米が悪いというふうな話を、米食国民であり、米をいちばん多く作っている日本人が、いちばん先に口を大きくして唱えるのはちょっとおかしいなと思うのです。もっと冷静に判断して、お米はどれだけ食べればいいものか、現状で十分なのか、あるいはもっと要るものかということと、それから先程先生のお話にもありましたように、食塩との関連、あるいは副食物との兼ね合い、これがだいぶ大切になってくると思うんです。

佐々木:そうですね。大体結論的なものが先に出ちゃうような感じがいたしますが、わたしたちも大学が東北にある関係で、20数年前に血圧計を持って、町から町へ歩いてみましたが、先生のおっしゃったように血圧が高い方が非常に多いというのが実態だったんです。お米を食べてる民族が全部そうかなということで、いろいろデ−タを調べてみましたが、これは日本だけではなくて、最近の言葉で言えば、地球疫学といいますか、グロ−バルなエピデミオロジイ−ということで、ちょうど10数年前アメリカへ行きました時に、世界中の資料を全部調べ上げてみた結果も、お米を食べているところ必ずしも高いとはいえないということでした。平均的に見ればアメリカと日本は大体同じだと思います。一方非常に血圧が低いところもありますし・・

 そこで、私自身はその中で一番問題になるのは食塩じゃないかということで、食塩に入ったわけなのです。

 そこで、お米を食べている民族が全部高血圧だということにはならないので、高血圧というのは一応世界の「なぞ」ということになっております。その「何が」ということがわれわれとして、いちばん詰めていきたいわけです。とにかく近藤先生が言われましたように、ちょっと目立つところがお米のとり過ぎということで、まあ7合以上ということを言われるんですが、当時はやはり非常に沢山ごはんを食べていたようですね。

 そこで歴史の本を見ますと、一応日本人は1人1日5合,2合5勺のマスがあって、その2杯分で一人養うということで、大体それが永いこと続いてきた。それが基本になってるということで、米食民族ということになるんでしょう。特に東北地方では、自然と塩蔵物と一緒にお米がとられたところに問題があったと思います。

 しかし、最近食料の流通体系が非常に変わってまいりました。これからはいかに食生活を合理的なものにもっていくかということでいろいろ見ているわけです。

小町:今おっしゃるように、流通機構が変わりまして、いろいろな副食物が農村に入るようになった。東北地方の冬の時に高知県の野菜が入るとかいうことも普通にみられますから、以前ほで塩蔵の必要はなくなったが、習慣として塩辛いものを好むということはいまだに残っています。これは何とかしなければいけないと思います。しかし20年くらいの経過で見ておりますと、いろいろな食品を食べられるようになったんですから、以前のように7合はもちろん、5合の米を食べるというような現象はまずないわけですね。よほで特別な方法以外は、秋田でも、昔の測り方でいいますと大体3合くらい、あるいは2合半というような方がかなり増えてきました。

ところが大阪辺りで見てみますと、とても2合というようなお米は食べていない。まあ1合たべるかな、という人が多いんです。

 もう少し考慮しておきたいのは、どれだけカロリ−が必要かという問題と、全体のカロリ−の中で、お米を含む穀類がどれだけを占めればいいかという問題が、学問的にあるわけですね。これは先生がおっしゃったようなグロ−バルなエピデミオロジイ−、世界的な観点から見た疫学で、アメリカでは主に心臓病、狭心症、心筋梗塞にならないための食生活が問題になっています。アメリカ人は非常に脂肪をとり過ぎた。特に動物性の脂肪をとり過ぎ、必要なカロリ−の4割あるいはそれ以上を脂肪でとったということもあって、コレステロ−ルが相当に上がった。このため脂肪を30%以内に抑えようということをいっているんですね。そうしますと、必然的に穀類、あるいはそれを含む糖質、これから60%ぐらいとろうではないかということになってきた。そうなると、向こうではパンとかになるんでしょうが、日本ではこれは米に変わるわけですね。

 わたしたちもずうっと秋田や大阪では現場関係で働いてる人と事務系の人、それから高知県の人々などを共同研究で調べますと、米を含む糖質が大体55%ぐらいから、少ない所で50%ぐらい、全体2,000カロリ−を1日にとるとしますと、1,000カロリ−前後、あるいはもう少し多くを穀類、またはそれを含む糖質でとっています。ですからアメリカは60%といっていますが、これは目標値ですから、日本の方ももう少し上げて1日総カロリ−の55%ぐらいは糖質からとったらいいんじゃないかと思いますね。しかも現在、日本人に非常に多かった脳卒中は減少してきていますが、こういう食生活では、脳卒中は減少したままでふえないわけです。

 それからいちばん大事なのは、脂肪のとり過ぎによって起こる、いわゆる狭心症、心筋梗塞。これを増やすとだめなんです。脳卒中は減ったけれど心筋梗塞で死ぬ方が増えたとなりますといけませんので、脂肪をむやみにとらないようにする。こうなりますと、むしろお米をある程度とっていることが安全弁になる。最近ではこれがアメリカ辺りでやかましく言われまして、ニュ−ヨ−クでジャパニ−ズ・レストランが非常によくはやる。なぜかというと、人によっては、お米を食べると心臓病にならないとも言いますが、これはむしろ脂肪をとりすぎないから狭心症にならないんで・・・

 アメリカで、日本食が見直されてきたことは、そういう背景があるわけですが、日本のほうでは逆に、何でも欧風化したらいいんだということで、穀類をますますとらなくして、ほかのものを食べようではなかという傾向になっています。大阪で見ますと、事務職の方で、2,000カロリ−を少し越えるくらいのカロリ−をとっているんですが、お米はそのうちの30%か33%くらい、でも秋田辺りの農村へ行きますと、さすがに50%近くがお米でカロリ−をとっている。ですから、大阪の事務職の方がお米を30%ちょっとというのは、少し極端に下がり過ぎてきているわけで、その代わりパンとかうどんとか、その他の穀類が14%くらい出てきているんですね。

 パンを食べたら頭がよくなるというような話が少し以前に出て・・・何も根拠はないわけですけれども、今でもそう信じている方もいるし、お米をとったら血圧が上がるというのでパンを食べているとか、うどんを食べているという人もいて、われわれも指導するのに本当に困るんです。これは国策、というとえらく古くさい言い方になるかもしれませんが、日本でできるお米をむ少し大切にしようということになると思います。大阪あたりでも13%,14%とってる他の穀物を米のほうに回しますと、総カロリ−に占める糖質の比率が、やはり大体半分になるわけですね。大阪では脳卒中は決して多くはないし、血圧の高い人もまず日本でいちばん少ない地域です。そのパタ−ンを変えずに主食の扱い方をうまくやっていけるということがいえるのではないか、とわたしは思うんです。

佐々木:最初にお話した、ケンプナ−の食事ですが、これは結局パンやバタ−をお米に替えようということで始まったと思うんですけど、これも先日亡くなられたド−ル先生が、その食事が高血圧に効果がある原因は何かということで、結局その食事の中の食塩が非常に少ないことで効果があるのではないかと研究されたわけです。

 先日、東京で第8回の世界心臓学会がありまして、1週間びっちり勉強させていただいたんですが、とにかく欧米人と日本人の循環器関係の病気のパタ−ンが全く違う。欧米人はとにかく虚血性の心疾患の一点張りで、それがもう大変な問題になっていますが、日本のほうは脳卒中ということですね。むしろ外国から見ると、日本はたいへんうらやましい状態とみているのではないかと思いました。外国人は、日本の脳卒中のほうにはあまり出席率が良くなかったということもありましたが、日本人は日本人としての問題をとらえてみたいと思いました。また同時に欧米人のことを参考にして、これからどういう食生活をしていったらいいか考えてみたい。その大事なところを最近進んできた学問の中で、どおう考えたらよういか、お話していただけたらと思うんですけども・・・

小町:なかなか難しい問題ですが、理論的な対処の仕方と、現実的なといいますか、脳卒中もすくないし、狭心症もすくないというような集団をみつけるという、経験的な進め方の二つがあると思うんでね。わたしは主に、実際に生活している人たちを、足と目で確かめて、それを永い年月かけて追いかけるという現実的な立場をとるわけです。今、先生がおしゃったように、日本には確かに脳卒中が多い。しかしその多い中にも、脳卒中が少ない地域と、少ない集団とがある。

佐々木:そうですね。世界的にみてもそうですが、日本の中でも地域差がある。この間、最近の資料をコンピュ−タで分析して、訂正死亡率ですが、全国の地図が細かくでましたね。

小町:関西地方は比較的少ないですね。

佐々木:そうなんです。

小町:これは、先生が常におっしゃっている食塩という問題も大きく影響しますし、それから、もう一つは、わたしがかねがね言っておりますように、やはり蛋白質、脂肪の問題が入っている思うんです。

佐々木:血圧が高くても大丈夫だと・・・

小町:ある程度上がりましてもね。

佐々木:そういうことですね。

小町:欧米人は血圧が高くても脳卒中、特に脳出血にはそう簡単にはならない。これは一つのなぞですね。

 日本人は、血圧が上がると非常に簡単に、今までは脳卒中になったわけですね。それがだんだんと、特に脳出血が減少してきた。

 

動、植物性脂肪は1対1で

 

佐々木:問題は脳出血ですね、やはり。

小町:40,50,60歳といった働き盛りの脳卒中が非常に減った。脳梗塞も最近では、若い人の脳梗塞や、50,60歳ぐらいは高血圧対策をやることによって減ってきたんです。そういう人の食生活の変化を見ますと、やはり蛋白質、脂肪を適当な値までとっている。もちろん食塩は多量にとらないということは大前提ですね。

 そういうような、日本のよかったところと悪かったところ、それからアメリカとかヨ−ロッパのよかったところ悪かったところ、これをうまくつなぎ合わせて、いいところだけをピックアップしたような生活をしていきますと、脳卒中も減るし、心筋梗塞にもならない、ということになろうかと思うんです。では、どのくらいのところがいちばん適切な値として出るか。

 いろいろ、全国の研究者の方を集めて、わたしもお世話をさせていただいているわけで、まだこれから細かいことをやらなければなりませんが、現在までにおよその意見の一致をみているのは、先程申しあげたように、お米、あるいはその他の糖質としてまず55%くらいとって、残るその半分くらいは脂肪でとってもいいだろう。ただし、その場合の脂肪は、植物性の脂肪と動物性の脂肪があるわけですが、簡単にいえば動、植物の割合が1対1ぐらいにしたらいいのではないか。それから蛋白質もやはり15%程度とらなくてはいけない。

 これはパ−セントで言うとわかりにくいので、グラムに直しますと、蛋白質は全体として1日に80グラムぐらいはとったほうがいいのではないか。

佐々木:昔はお米、味噌なので蛋白質をとっていたんですね。

小町:ええ。ですから植物性の蛋白質は十分過ぎるほどあったんです。

佐々木:お米の偏食というのが悪かったという考え方でしょうね。

小町:そうですね。ですから、蛋白質全体としては十分とっていたのですが、植物性のほうに偏重し過ぎた。それを適切な値まで、動物性の蛋白質と植物性の蛋白質を1対1ぐらいまでにもってくる。脂肪も大体1日に50グラム前後とってもいいのではないか。ただその場合にも動、植物の脂肪の割合が1対1ということですね。

 これは日本食を考えますと、かなりうまくメニュ−ができるわけですね。ごはん朝1杯半、昼1杯半、晩2杯ぐらい食べまして−−これは大きなお茶碗で山盛りではなく、中茶碗で軽く1杯というところで−−

 それで1日の量が5杯ですね。5杯も食べられんと言う方もあるかもしれないが、これでト−タル2,000カロリ−ですから、まず普通の生活の人ですね。その代わりパンを食べた場合はそれだけお米に換算して引くとか、お酒を飲み過ぎた場合はそれだけ引かなければいけない。あるいは多量にコ−ヒ−、紅茶を飲んで砂糖を入れるというようなことは、これもいけないわけで、引いてもらわないと肥満になります。

 それで、お米だけで単純に計算しますと、まず5杯くらいはいけるのではないか。それから、副食物は魚、鳥、牛肉、豚肉、そして植物性のものには、油脂、天ぷら油、また豆腐とか大豆など結構なものがありますし、揚げとか、日本的なものがありますから、そういうものを万遍なく食べていくと、動物と植物の比が1対1になります。

 血清コレステロ−ルの上がり過ぎを心配する方もありますが、植物油はこれを下げるといわれているし、魚はあまり上げたりしないので、日本食というのは、そうばかにしたものではない。偏食になっているから問題があるのです。

佐々木:わたくしも長年東北地方の人々の血圧を見ていまして、その方々がどういう”事件”を起こすかかということを追跡して、普段の血圧が高いと”事件”を起こす割合が多いことはみておりますが、同じ血圧のレベルでも、早く”事件”を起こす人とそうでない人がいる。その違いがあるのではないかと思います。

 普段の血圧のレベルとなると小さい時からの食塩の食べ過ぎを考えたいわけですが、血圧の高い方でももっと丈夫なといいますが、そういうやり方、生活のし方があるのではないでしょうか。現在、日本あるいは世界中で、何百万人という人が高血圧なわけですから、そういう人の予防を考えますと、生活の中でのとくに食生活の合理化というものがどうしても必要だと感じます。

小町:高いのを抑えるというのがプライマリ−のプリベンシヨン、第一次予防になるんですけれども、現在高血圧になってしまっている方にはそんなことを言っても始まらないわけです。今度は二次的の脳卒中にならない予防、あるいは心筋梗塞にならない予防といいますと、やじゃり血管を大切にするということです。

佐々木:特に先生、脳出血はもう現時点ではかなり予防できるのではないかという感じを、われわれ疫学の成果から思うわけなんですけど。

小町:そうです。脳出血が防げることは非常にはっきりしたわけですから、やはり先程申したような適切な値の蛋白質、脂肪をとり、お米もまず5杯ぐらい以内、砂糖はむやみにとらないというようなことで、脳卒中も心臓病もまず防げる・・・。

佐々木:われわれは長年疫学をやってきて、大体そういう線をだしてきたように思います。また最近ではいろいろ動物実験で、なんとなく同じことが証明されてきた感じがしますが。小町:そうですね。

佐々木:どうもきょうは、ありがとうございました。

小町:どうもありがとうございました。

(米食民族の国民栄養学講座 日本放送短波放送収録集,59−66,昭54.2.)

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