脳卒中

 (昭和50年1月 東奥日報紙上に掲載)

 遺伝と環境の両方が重なる

 ボンとあたる、ビシッとあたるという言葉がこの地方にあります。それだけで話が通じるというのは、若く、元気で働きざかりの方に脳卒中がおこって、死んでいった、そんな例を身近にみることがあったためと思います。

 脳卒中は脳の血管の障害によっておこる病気の総体としての名前であって、細かく検査するといろいろな種類の脳卒中に診断されるものですが、大ざっぱにいって、三つと考えてよいでしょう。

 脳の内に出血する脳出血、脳のくも膜下に出血するもの、また脳の一部に血液がいかなくなっておこる脳梗塞(こうそく)=(脳軟化)です。

 この中の脳出血では今まで元気な人でも、いったんおこると一週間以内に半分は死亡します。これが若い働き盛りの時からおこるというのが、日本、とくに東北地方の特徴で、青森県でも60歳前で毎年500人は死んでいます。

 ”あたりまき”という言葉もあります。”まき”とは”血統(ちすじ)”をあらわす言葉ですが、脳卒中で死ぬことを”運命”と考えるのは早計です。ほとんどの病気が、”遺伝”と”環境”の両方の因子に左右されていると考えられますが、脳出血の基礎になる高血圧も両方の要因があることがわかっきたのです。

 脳卒中が予防できるというのは、その証拠があるからなのです。

 第一の証拠は、戦時中の経験です。戦後30年たった今ふりかえってみますと、あの時は腹はへったが、食べ過ぎはなく、血圧に悪い食塩も少なく、よく働き、よく歩き、血圧も低かったことが記録されています。それでいて、あの当時40歳、50歳の働きざかりだった人が脳出血で死ぬことは少なく、長生きできたのです。

 第二の証拠とでもいうべきものが最近報告されるようになりました。これは世界的な傾向と一致するのですが、脳卒中のうちの中年の方の脳出血が最近減少していることが観察されています。これは皆が血圧に関心をもち、よく治療するようになったことによるのか、あるいは生活の内容が変化してきたことによるのか、おそらく両方でしょうが、これを証明することが学問上の現在の課題です。

 

死亡者は高血圧の患者

 脳出血の発作発来の直接のきっかけを、どう予防したらよいか、どんなことに注意したら発作を予防できるかは、まだはっきり証明されていません。調べてみると、実にいろいろな場合におこっています。

 しかし、われわれの長年の研究でわかったことは、脳出血で亡くなったその方の血圧が今日昨日高くなったのではないことです。一般に生活している方の血圧は、1年前、2年前、いや10年前、20年前から血圧の高い方であることが判明しています。その反対の血圧の低い方は、若い脳出血では死んでいません。

 最近開かれたWHO(世界保健機構)の会議でも、日を異にする少なくとも三回の血圧値が、最高血圧180、最低血圧110以上の時は治療を受けなければいけないし、その治療の効果があると認められています。また小さい時から10年、20年と血圧に良い生活をし、悪い生活をしないことは脳出血予防の第一歩です。

 

 いまだ治療不可能なもの

 くも膜下出血、これは頭がわれるように痛くて突然おこることが多いのですが、脳外科の進歩で治療可能となりました。

 しかし、脳梗塞の予防への道はまだ遠いようです。手がしびれたり、ほんちょととした、うっかりしていると見逃すような一過性の症状が繰り返すうちに、本格的な半身不随になるのです。急死することはありませんが、2年から5年と”寝たっきり老人”になります。広い意味の老人対策を考え、その心構えをもつことが脳梗塞の予防への道でしょう。

(東奥日報,昭50.1.30.)

もとへもどる