薪炭手当合理化についての基礎的研究

−はしがき−

 5年前、私が東京からここ弘前大学医学部へ赴任することにきまったとき、皆から一様にいわれた挨拶は、”寒いところへ大変ですね”、ということだった。たしかにこのみちのくの弘前は、年平均気温10度で、冬は大部分0度以下で暮らさなければならない土地であるのだが、住んでみてわかったことは、冬は部屋を暖かくすれば十分仕事ができる。東京へ出張するときは、かえってシャツ一枚余計に着ていかなければならない。しかし冬の燃料費はかさむのは当然で、国家公務員としての寒冷地である諸手当が、北海道と津軽海峡一つへだてているために格段と相違がある矛盾を身にしみて感ずることになった。

 一度青森県を土台に、温度環境を中心として、生活の問題をまとめてみたいと考えていたところ、今回の調査研究の依頼を受けたことは私として幸だった。

 実際家屋を例にとり、実際に薪スト−ブをもやしてみてどんな結果がでてくるかが楽しみであった。

 各部屋を暖かくすることが、贅沢だという観念はすてなければならない。しかしそれだからといって、われわれ衛生学者は、人間を温室育ちでよいというのではないことを一応ことわっておこう。われわれ人間の能力をあらゆる困難に打ち勝つことができるように高めておくことはやはり大切なのである。これは鍛錬という言葉におきかえることができる。それぞれに適した鍛錬の仕方によって、われわれの能力を高まらしておくことを忘れてはならない。それと、普段快適な生活を送ることには何らの矛盾を感じないというのが、私の考え方である。

(薪炭手当合理化についての基礎的研究:青森県における冬期採暖についての理論と実際)

(昭和34.4.26.)

もとへもどる