日々随感・人間と健康

3 こたつと高血圧

 

 だいぶ前、「高血圧の多いこたつ生活」という見出しで、私たちの研究が新聞に発表になったことがあった。

 これを読んだある人が、「やっぱりね」「こたつにはいっていると頭がのぼせてくるからね」と。その理解、直接的、実感的であること、恐れいりました。

 だがわれわれのめざしたのは、東北地方の人たちの住生活、とくに温度環境と高血圧との関係で、”冬こたつで生活している人は、スト−ブ生活の人にくらべて寒い生活をしているために、高血圧になりやすいのではないか”という意味だったのである。

 私が10 年前、ここ弘前大学への赴任が決まったとき、一様にいわれたことは「寒いところへ大変ですね」ということだった。

 たしかに、このみちのくの弘前は、平均気温10度、冬の大部分が0度以下。しかし住んでみてわかったことは、部屋をスト−ブで暖かくすれば、かえって東京より快適であること。冬の出張にはシャツを1枚よけいに着てゆくことになった。

 ところが、この地方の人たち全部がスト−ブをつけて、冬暖かい生活をしているわけではない。いろりだけの生活では、昼間で室温0度以下という家も沢山あることがわかった。そこで、冬スト−ブをつけて暖たかいところで生活している人たちと、いろりこたつで生活している人たちの血圧を比べてみよう、ということになった。

 その結論は、「スト−ブをつけている人の血圧はつけない人にくらべて低く、長くスト−ブをつけている人ほど血圧は低い」ということになり、これが新聞に「高血圧の多いこたつ生活」となったというわけ。

 人間は恒温動物だから、体温を一定に保つためには、いろいろな努力をしている。

 暑くなれば、着物を脱いで裸になり、汗をかいて調節をする。冷房装置を考えることになる。寒くなれば、トリはだになり、ぶるぶる、がたがたふるえてくる。さらに代謝が増してくる。着物を重ね、住宅にはいり、暖房を置く。だから南極の人も、南洋に住む人も、体温は同じということ。

 北国の人は南の国の人にくらべて、代謝が高まっている。そして大食だ。中華そばだけでは足りず、そばにおにぎりをおいて昼食をとる。スト−ブにマキをくべる代わりに、からだの中に食物を詰め込んでいる。そして厚着。二貫目(7.5キログラム)以上、いや10キログラム以上の着物をつけ、毎日ご苦労さんのことである。そして夏は涼しいが、冬は南方系の寒い家に住んで、その寒さに耐えられるぎりぎりの生活をしている。そのがまん強さ、ねばり強さ、これが東北人の性格を決めたといえないだろうか。

 県庁や市役所がデラックスな暖房完備の建物になると、一般家庭の温度環境にも同情心が浮かぶことになるだろう。

 「公の人の集まる場所は適温に保たれていなければならない」こんな条例が青森県にできるのはいつの日か。アメリカにはもう実例がある。いや日本でも、一定の区域を中央暖房にして、そこに住宅を計画的に建ててゆく、こんな方法が行われようとしている。

 われわれ公務員の薪炭手当が津軽海峡一つ隔てただけで、北海道と格段の違いのあるのに矛盾を感じて「薪炭手当て合理化についての基礎的研究」をやったことがあった。このレポ−トを使った某労組の諸君、ベ−スアップが認められたとか。

 病院のマキ代も保険では認められないという実情、学校がコンクリ−ト造りの永久建築になるのに、暖房が考ええられていない実情、マキや炭で暖まれというセンス。いずれも青森県人の命に直接間接に関係のあることというのはいいすぎだろうか。

 住宅完備、暖房完備の北海道の人たちに「あたり」が少なく、高血圧も少ないという。とてもだまってはみていられない。

(東奥日報,昭39.2.7.)

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