保健所に医師はいらないのか

 

 医師の初任給が四万、五万といって、それでも需要に応じきれない近頃、今度の給与改正によって保健所長が、本県では三等級におさえられたことは、本県の公衆衛生の将来に一大暗雲をなげかけたといわなければならない。一生その土地の公衆衛生の向上につとめ上げてても、学校を出たての者に、その手当が及ばないということは、考えてもおかしな話である。

 本県では、結核追放五カ年対策はようやく第一歩を踏み出したばかりでもあり、乳幼児対策、また最近ではジフテリアの集団発生などに、その道の専門家が一人でもほしい時である。ところがすぐお隣の秋田県では保健所長は一等級であり、研究手当などで優遇して本県とはけた違いなので、誰が本県のために努力をしようという気持になるだろうか。もしなるとしたらば、それはまさに奇特な存在である。

 今さら保健所を通しての予防医学を中心とした公衆衛生活動が治療を専門とする病院と共に、われわれの健康の保持、確保に必要なことは誰もが疑わないところであろう。「ころばぬ先の杖」「一オンスの予防は、一ポンドの治療にまさる」「上医医未病之病、中医医将病之病、下医医巳病之病」といった格言のあることを今さらいうまでもない。

 本県ほど公衆衛生活動が必要であり、その人を得ることが大切だと思うのだが、今回の給与の取り決めは、正に遺憾であるの言葉につきる。この取り決めのはね返りは、県民の健康のレベルの低下に現れてくることは明らかなことであるから、われわれの一大不幸といわなければならない。

(東奥日報;明鏡,昭32.12.12.)

もとへもどる