ウイリアム・テルのりんご

 

 数千年もの間、人々とのかかわりをもってきた食塩のとりすぎが、この地球上に住む人々の高血圧と関係があるのではないかとの説が、極めて有力になってきた今日この頃だが、世界の学者にそう考えさせるようになってきたのは、日本から報告される数々の研究が影響したことと思われる。

 この方面の仕事をはじめて20数年、このような時代になってみると、かえって、食塩が何故悪いのか、他に関連のあるものはないのかと、あらためて考え直させるのだが、ナトリウムと同時に、カリウムの問題が、はじめから頭をはなれない。

 というのは、弘前で研究をはじめてぶつかったのは、脳卒中・高血圧と食塩の問題であったのだが、又同時に、りんごに含まれているカリウムの問題もあったからなのだ。

 この方面の専門の方なら十分ご存知の、ブラジルのヤノマノインデイヤンの研究もあるが、最近われわれの手で、食生活、血圧ともに大いに違う日本の秋田とニュ−ギニヤの人々の、頭の髪の毛のナトリウムとカリウムの様相が全く違うことを実証できたことも、うれしいおどろきであった。

 さて、このような研究のきっかけになったりんごについては、ウイリアム・テルのりんごの物語が有名である。実は私が小学校の頃、例の弓を引いて頭の上のりんごをいとめるという劇に一役かって三田の山の大ホ−ルでやったことがあった。

 「あの時の、あの劇をみましたよ」と、帝国ホテルで先日開かれた慶應義塾幼稚舎の同窓会で話しかけくれ、はからずも、45年前の思い出と、今日の話題とのむすびつきを教えてくれた、シングルTのゴトウ(五島雄一郎)君に感謝しよう。

(日本医事新報,2855,43,昭54.1.13.) 

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