地震 かみなり 火事 エイズ

 

 女子大生にエイズの話をした時「地震 かみなり 火事 エイズ」と云ったら現代風でよいですねとの感想であった。おやじの権威が失墜した現在、最も恐いのは「エイズ」である。

 初めて米国でエイズによる患者の死亡が報告されたのは一九八一年である。そして今世紀末の世界最大ともいえる健康問題になった。

 

 エイズとは「後天性免疫不全症候群」という英語(Acquired Immuno-deficiency Syndrome)の頭文字をとって「AIDS」(エイズ)となったのであるが、フランス語では同じ意味の(Syndrome d'immuno deficience aquise)の頭文字をとって「SIDA」と云う。中国語で「愛滋病」と書き、台湾では「愛死病」という字を用いている。さすが漢字の国ならではの表現であるが、最初の報告の症例の患者が男性の同性愛者であったこととか、麻薬や覚醒剤の中毒患者の症例がアメリカで多く報告されたことが世の関心を呼んだことは無関係ではない。

 この後天性免疫不全症候群と云われる病気の本体は一九八三年フランスで分離されたウイルスによることが判明した。そしてそのウイルスは人の免疫を不全にする意味のHIV(human immunodeficiency virus)と云われるようになった。

 

 この地球上にHIVのウイルスがあってそれに人が感染して起こる病気である。感染すると身体を病気から守る免疫の仕組みが破壊されて抵抗力がなくなり、普通では発病しないような日和見(ひよりみ)感染症にかかったりガンができたりして、最悪の場合には死に至る。

 人から人へ抱かれてうつる病気といえば梅毒を考える人も多いと思うが、この梅毒の病原体はスピロヘ−タであった。今度はウイルスであって、その発病の仕組みが研究展開と共に最近明らかにされた。

 

 免疫とはラテン語で(immunitas)といい、中世の税制の課役から免除されるという意味であるが、厄をのがれる、病気からのがれる、そして医学的な免疫という意味になった。

 ジェンナ−は牛痘を接種すると天然痘にかからない「種痘」について一七九八年報告し、パスト−ルは感染症回復後「二度なし」(non-recidive)からワクチン接種を考えた。ベ−リング・北里は一八九0年感染やワクチン接種によって血清中に生成される物質として「抗体」を考えた。生体内に「自己」とは違う病原体などの「抗原」とよばれる「非自己」が入るとそれに対する「抗体」と「感作リンパ球」を作りだし抵抗していく。体でつくりだす免疫細胞には「大貧食細胞」(マクロファ−ジュ)、Bリンパ球(骨髄(bone marrou)のBで免疫グロブリンの抗体をつくる)、Tリンパ球(胸線(thymus)のT)から成立ち、T細胞にはヘルパ−T細胞、サプレサ−T細胞、キラ−細胞のほかNK細胞(natural killerの頭文字)があることが区別されており、これら細胞群が連絡をとりあって外からの病原体に立ち向かう免疫系をつくっている。エイズのウイルスはリンパ球、主としてヘルパ−T細胞の中で増殖し、細胞を破壊し、次から次の細胞へと感染を広め、遂には人の免疫力を弱めていくのである。

 感染しても六ケ月から長い場合は十年以上ともいわれる期間は無症状であり、そのあと色々の病状が発病し、今のところ治す方法がないから死亡率は非常に高率で年間患者の約二分の一が死亡する。

 

 ウイルスそのものは比較的弱いウイルスであって無闇に恐れる必要はない。エイズに感染している人の「血液」「精液」「腟分泌液」が感染源であり、目・口・尿道・性器など粘膜や傷口から入ることを防がなくてはならない。

 「握手、ふつうのキッス、公衆便所、食品、食物を分けあう、レストランでの食事、まわし飲み、せきやクシャミ、涙、ベッドのシ−ツ、マツサ−ジ、マスタ−ベ−ション、感染者と一緒に働くこと、献血、夫婦で互いに貞節を守ってのセックス、きまったパ−トナ−とのセックス、相手の性生活を知らない場合は必ずコンド−ムを使う、貞節を守り薬物を濫用しない人とのセックス、その他蚊による感染やプ−ル・風呂などの感染はなく安全である。」

 「あなたがエイズウイルスに感染していなかったら、夫や妻以外の人とのセックスとして、コンド−ムを使わない性交、コンド−ムを使わないオ−ラル(口づけ)セックス、肛門性交、性器具の共用、デイ−プキッス(フレンチキッスともいう)は避けなければならない。」

 「あなたがエイズウイルスに感染していたら他人にうつさないように、コンド−ムを使わない性交はせず、精液・母乳を提供しない、血液・臓器の提供をしない、注射針の共用をしない、妊娠はできるだけひかえることが望ましいが子供を望む場合には医師に相談する。」

 

 今世紀末エイズ患者は世界で何千万人にもなろうと云われる。アメリカでも東南アジア地域でも感染者が激増し、一部の売春婦の七十%が感染していると云われるのに、日本では極めて無関心である。

 

 感染して六週から八週でエイズ・ウイルスに対して抗体が体内にできるから、症状がなくても、十CC位採血して検査すれば、感染しているか感染していないかが分かる。感染の機会があってすぐには抗体ができないから分からない。ある期間たってからでないと証明できない。もし検査が陽性だったら定期的に病院にいって現在出来る限りの発病予防や治療をしてもらう。検査が陰性であっても三月位後にもう一度検査を受けるとよい。日本ではどこでも検査できるようになった。

 医学は病原体に「特効薬」をみつけ、抵抗力をつける「ワクチン」を作って成功してきたが、エイズに対してはまだ成功していない。また根本的に治療できる方法を見つけていない。

 人はいつかは死を迎えるにしても、それを自ら早めることはない。今できるのは「予防」である。エイズ対策においてもっとも重要な要素といえば、それは「教育」にほかならない。

 「地震 かみなり 火事 エイズ」ではあるが、エイズについての正しい知識をもつことが何より大切なことと思われる。

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