4 りんごの医学研究の第1歩

 

 昭和25年(1950年)になって、弘前医学第1巻第1号が発刊されたとき、りんごの医学研究の第1報が報告された1)。

 青森県にりんご産業が興り、その土地に昭和19年青森医専が誕生し、昭和23年に弘前医科大学になった後、初めての医学研究の雑誌となり、現在に続く「弘前医学」にりんごの医学研究の報告されたのは、歴史的必然性であろう。

 社団法人青森県りんご販売対策協議会発行の「青森りんご通信」の第4号(昭和31年)に、当時弘前大学医学部でりんごについての医学研究を行っていた3教授を囲んでの座談会に記事が載っている2)。

 

 波多江久吉(司会):青森県はりんごで生きている県でありまして、りんごを国民の健康に役立つように奉仕しながら、生産し、その代償を頂くことによって県民の生活を高めていかなくてはなりません。そこで常に消費者に呼びかけ、りんごを食べることはこれほど値打ちがあるんだという認識をして頂くことが宣伝の第1歩であります。特にりんごの価値についてももっと科学的な知識を普及させたいと思います。そういう意味でお話をお願いします。

 松永藤雄(第1内科):りんごが医学的に効くことは昔から分かっていることで、「モ−ロの療法」というのは有名です。それがペクチンの作用かどうかということはまだ分かっていないんですが。

 荒川雅男(小児科):ドイツのモ−ロという人が赤ん坊の下痢のときにりんごをおろしてオッパイの代わりに与えると2,3日で治る、ということを提唱した。これは赤痢にも慢性胃腸障害にも効くというので有名です。

 角田幸吉(薬理学):私の方で動物の腸で試験したのですが、他の薬物で腸の運動を高めてりんごをやると元のようになり、逆に腸が弱っているときに与えるとそれも治り、両方とも腸を調整する作用をします。

 

 そして話題は「りんごは整腸剤」「母乳にまさるりんご果汁」「肌がきれいになる」「ペクチンは解毒と止血」「りんごのビタミン」と続き、薬局の窓口からりんごジュ−スを出すようにしたいものですねとの発言もあった。

 

 弘前医学の第1号に掲載された論文は、第1内科の五十嵐圭一の「りんごの医学的研究、りんご果汁の胃液酸度に及ぼす影響」であった1)。モ−ロの研究はいわば病人についての療法で、経験医学的見地に立って行われており、厳格な適応症が決定されていないので、りんご療法の医学的応用面を適正化したいとの志であると述べられている。

 「常用果実ト胃液分泌トノ関係ニ就イテ」の研究は日本でも昭和17年頃に二宮八郎によって行われているが3)、五十嵐圭一は新鮮なりんご果汁が胃液分泌に対する影響について、その分泌促進作用の促進作用は、カフェインに比較して明らかに勝ることを証明し、この果汁にヒスタミン様作用のあることを提唱し、次ぎの研究4)で、ことに脱ペクチンを行った清澄み果汁でも、生の果汁とほとんど差のないことを認めて報告した。さらに下瀬川薫5)は「濃縮リンゴ果汁の胃酸分泌及び貧血に及ぼす影響に関する臨床的並に実験的研究」について報告した。

 これらの報告をまとめて、松永藤雄は次ぎのように述べている2)。

 「私どもでやった実験も荒川さんと同じです。胃酸の酸が多い人と少ない人と、無い人にりんごジュ−スを与えて実験しました。胃カタルか胃炎かの酸の少ない人は多く出るようになって胃液の分泌を促進させて消化作用を高めます。胃潰瘍・十二指腸潰瘍などの人は多少苦痛を感じる人もありましたが、あとはよく、全然酸のない人はジュ−スを与えても酸がでませんでした。そういう人は全部胃ガンでした。胃ガンの人にはほかのものを使っても胃酸がでません。 

 もう一つ貧血をすると胃酸が出なくなるのですが、逆に胃液に酸がなくなると貧血になります。この実験は3倍位の濃厚ジュ−スでやったのですが、貧血が快復しました。まだどの程度の貧血にどの位という研究ができていませんが、ジュ−スで胃液の酸と赤血球の量を増やすのに効果があるという結果を得ました。

文献

1)五十嵐圭一:弘前医学,1(1),43,1950.

2)青森県りんご販売対策協議会:青森りんご通信,No,4,1956.

3)二宮八郎:日本消化機病学会雑誌,41,65,&723,1942.

4)五十嵐圭一:臨消,3,48,1955.

5)下瀬川薫:弘前医学,11,490,1960.

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