「病人用カプセル」のこと

 

 入院中いろいろと考えることが多かったが、その内の一つ「病人用カプセル」について書いて置こうと思う。

 この「カプセル」によって病人として入院しているときに快適に過ごすことができ、また病院として病人管理上また看護師の仕事の軽減に役立つに違いないと考えるからである。

 イメ−ジとしては「未熟児の保育器」を考えて戴ければよいと思う。

 子供から大人、老人にいたるまで、病院に入院している患者全てに当てはまるものである。病院に入院していなくても一般の家庭でも良いと思うし、地震などの不慮の災害のときにも役立つと思われる。

 「カプセル」というとすでに「カプセル・ホテル」もあるが、大きさ構造は色々であろう。要は「カプセル」内の温度環境、空気環境、音環境、光環境をどうするかということである。

 今度の入院の経験では、弘前の11月から12月で外は冬景色であったが、病室内の温度は室内の壁にかかっていた温度計によると22度から28度の間を往復していた。寝泊まりしてくれた家内はシャツ一枚でまるでレゾ−トホテルにいるようだといっていた。30年前ハワイでのYMCAでの最初の夜はベットには毛布はなくシ−ツ一枚あるだけであった。年間26-27度であると言われていた記憶がある。窓は開け放され近くの道路からトラックの音が入ってきて近代文明を感じたことを思い出す。ミネソタでのアパ−トは26-27度で、冬にそなえて送ってくれた下着は不要になった。スケ−トにつれていかれた別荘で暖房のない別棟の部屋で寝ることになったときの夜は外は−10度位だったか寒くて寝られなかった思い出がある。シベリヤでの抑留者のことを考えた。エスキモ−の生活はどうかと思っていたら、本多勝一さんの体験記が新聞にのって彼等なりの工夫があって夜は18度であったとか。室内温度の北極は日本の東北地方の生活だとあった。

 東北地方住民の脳卒中と高血圧の疫学的研究のはじめ、高橋英次先生らと温度環境に注目し、それが脳卒中の予防上大切であることを初めて指摘したことを思い出す。「温度と人間」での研究成果によれば成人で適正温度として25−28度と記憶してる。28度を越すと発汗による体内温度調節が始まる。病人の基礎代謝は巾があるから一慨にはいえないが、25,6度位がよいのではないか。 

 入院中、明け方は「はだ寒く」感じられ私はそれで目を覚ました。昼過ぎには「暑く」感じ一寸汗ばんだ。また皮膚が「暖かく・かゆく」なった。暖房器具のある方は輻射熱の影響を受けていた。

 肌着をどれだけ付けるかが問題である。保育器の場合赤ちゃんは裸のことが多いが、どんなものか。大人では寝衣が支給されていたが、私は丁度自分にあった肌着を用意した。それも部分的に肌を締め付けるような、また厚くなっているところがあって、「あたたかさ・かゆみ」をきたす部分がある。肌着如何によって温度環境は左右されることになろう。電気毛布も実用化しているので、調節が良ければ良いと思う。しかし老人は温度ににぶくなって種々問題を起こすことがあることを注意しなければならない。

 弘前へきたての頃、鼻から吸う空気の温度のことを考えたことがあった。夜間暖房をおとすと枕もとにおいた水が凍ることもあるのだから。これが冬の排尿にどう影響するのか考え、実験計画を立てたことがあったが、研究論文は書かなかった。耳鼻科の先生に聞いたら、鼻の血管が寒冷刺激されて、血管が収縮し、「くしゃみ」が出るという。今度の夜くしゃみが出て、その音で目が覚めた。吸気にも丁度良い温度があることであろう。

 外部からの輻射の影響を受けないためには「カプセル」の外側は白・銀色などで輻射熱を遮断するようにした方が中の温度環境が安定すると思う。

 今度の入院室での湿度の環境は不明であった。ミネソタでの生活では低湿度であった。洗濯物は室内でかわくし、お土産の竹細工の籠はささくれた。映画ジャイアンツで握手するときにパシット音がでたシイ−ンもシャツをぬぐとき火花が出る静電気の発生も実感した。日本のような高湿度になれていた自分は低湿度の環境では皮膚が乾燥し「かゆみ」に悩まされた。そんな知識のない頃で、当時売り出しのオロナイン軟膏でごまかした思い出がある。

 空気環境としては、必要な酸素分圧が保たれていれば、重病人以外は普通の大気環境でよいと思う。マラソンの高地訓練の場合は低酸素分圧への訓練が必要かもしれないが。

 音の環境は外からの音の影響を受けないことが必要である。話し声、ドア−の開け閉め、スリッパの音など。音環境は無音環境が良いと思う。何かの音で目が覚まされることがある。単調な反復される音が眠りをさそうともいわれている。以前夜の寝台車に乗っていたとき、真夜中に臨時に止まった時急に振動が無くなって目が覚めたことを思い出す。但し内部では本人の意思でラジオなど聞きたいときは聞こえるようにすれば良いと思う。 

 光の環境も音と同じで外の光に影響を受けないようにした方が良い。消灯・朝の点灯などの病室の明かりの変化、見回りにくる看護師さんの懐中電灯の光に起こされることがある。従って、カプセルは外の光の影響を受けない構造が必要である。但し内部では本人の意思で無光から有光に自由に変えられるようにする。私は眩しくない程度に時間が示されている方が安心する。

 内部にいる人間として、体内で腎臓は絶えず働き、できた尿は膀胱に溜められてゆく。ある限界に達したとき、外に排尿したくなる。それまで門を閉じているが尿意として意識される。同じく肛門も便意を意識するまで門を閉じておく。私の回復過程の中で、これらが次第に自分の意思でコントロ−ルできるようになった。これができない方はまた別に考慮しなければならないないだろう。おしめをあてるといったように。

 これ以外には毛がのびても爪がのびても本人の意識にはのぼってこないと思われる。

 地球上では重力が働いているで上のものは下のものに圧迫を与える。最近皮膚科領域で問題になってきた褥創(じょくそう)も下にあたる皮膚が関係しているのではないかと考えた。寝る形も人様々で、どんな形で寝るのが一番よいのか。仰向けか、右向けか、左向けかがあると思う。それにあった寝床が良いと思う。

 夜看護師さん達が一時間置き位に見回りにくる。病人が生きているかどうか見にきているのだという。いわゆる「バイタル・サイン」の確認であるという。そのための夜勤であるという。大変な労働力であると思う。そんなことはモニタ−で分からないかと思う。心電図のモニタ−、脈拍のモニタ−は体に付けて置けば可能であるし、重病人ではやっている。体に何もつけないでやる方法はないものか。非観血的間接的血圧測定法については長年苦労してきたが、上腕にマンシェットを巻く以外指でみる方法もあるが、これには指をつつむものをあてがわなくてはならない。まったく体にさわらないでというわけにはいかない。体温は自分で測ることといって、電子体温計がわたされていたが、888からピイピイと音で示される体温計算値は一応良いと思う。耳で測る体温計はまだ使ったことはない。でもサ−モグラフィ−のように体に触れず体表面の温度が測定される時代になった今モニタ−は可能である。呼吸も吸気呼気の動き、寝息、ふとんの動きもモニタ−可能である。モニタ−が可能ならナ−スステ−ションで一括管理出来、アラ−ムのレベルをそれぞれ決めておけば、危機管理には役立つと思われる。

 人間が安眠し寝る目覚めの現象は何によるのか、不明の点が多いとの印象である。

催眠術とはどんな術かと思う。重力にさからうことなく手足の緊張をほぐし、あと体内からの排尿の尿意や排便への便意がなければ、私の場合は「あつあつ・かゆかゆ」刺激、「はださむ」刺激、音、光の刺激がなければ、眠りに入れたと思う。これらの刺激が与えられたとき、目覚めると考えられた。

 瞼を閉じれば、色々な考え、場面が展開し、夢うつつの状態になる。脳波の研究をやっているわけでないので、自らの自覚的経験を述べているのにすぎない。

 色々の刺激がなければ、よく寝付かれると思うし、目覚めも良いと思う。目覚まし時計で起こされるわけではないので。

 尚この件についての相談は私の代理人佐々木悦(えつ)(Tel&Fax0172-32-7809)にお願いします。(20021220)

(弘前市医師会報, 38(4),(通巻290号),14-16,平成15.8.15)

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