「健康農村建設全国協議会」のこと

第5回全国協議会・昭和33年・弘前市狼ノ森の記録から

 

 労動科学研究所(労研)の中に「健康社会建設協会」があった、理事長は暉峻義等先生であった。そして健康農村建設全国協議会を主催していたが、その第5回の健康農村建設全国協議会が弘前市狼ノ森で昭和33年8月9-10日に開催されている。詳細は「健社建通信」の特集号(第35号)に記録されている。

 「農民の病気の治療を行きとどかせ、農村の健康を増進するための本協議会の開催地を、昨年度から農村にうつし、現地で現地の人々と話し合いながら行う方針に決っした。昨年は愛知の幸田町で、そして今年は青森の健康農村の開祖であるこの狼ノ森で開くことになった」

「健康農村建設協議会は決議する協議会ではない。また政府に対して圧力をかけたり、抗議をしたり、要求を提出したりする団体でもない。この協議会の意義は、あくまでも自由、平等、友愛という近代的精神の上にたち、科学的知識と技術の正しい適用とによって、健康な村づくりにたがいに手をとって進んでいる同志がその喜びを語り、当面する難関を打解していくための相互の力づけはげましあいのための協議でありたいと念願する次第である」

と暉峻義等先生の「主旨の宣明」に述べられている。

 世話人が鳴海康仲先生であった関係で、県内外から多くの演者が集められれていた。約150名の参加者の名簿がある。今そのお名前をみるとほとんどの方々がすでに故人になられているが。

 私には狼森の調査報告をお願いしたいとの康仲先生からの伝言を伝えた工藤武雄先生から手紙がきている。「高橋先生の時代からのものをてがかりに狼森の変遷がみられるとよろしいわけですが・・・・一人10分となっているので適当な課題でご発表くださるとしあわせ・・・」とあった。

佐々木直亮               鳴海康仲   暉峻義等         

 昭和33年8月というと、われわれが29年から開始した「東北地方住民の脳卒中ないし高血圧の予防にかんする疫学的研究」の成果が色々とでてきた時であり、それぞれ基礎になる研究論文を学会へ発表し、熊本での日本衛生学会ではじめての「高血圧の疫学」のシンポジウムでの発表をすましたところであった。

 脳卒中の問題をどう捉えていたかが記録の中から読みとれる。

 

3)働き盛りの東北農民の脳卒中死亡をどう防ぐか

 

 東北地方の人々の脳卒中および高血圧の問題を提出し、われわれの考え方を述べさせていただきたい。

 皆さんご承知のように、国民死亡の第一位は脳卒中で、一年間に約十三万人が毎年亡くなっている。これはますます増加すると思われる。われわれは脳卒中の死亡の絶対数がますということは、あまり問題にしていない。また、県の衛生部とか、市町村から出されている衛生統計に出ている脳卒中の死亡率、すなわち死亡数を人口で割ったものに、われわれはあまり意味をおいていない。というのは、脳卒中の死亡は年齢の増加にしたがって上昇するという生物学的特徴をもっているからである。年をとれば、あるいは年をとった人の多い所では死亡の数が増えるのは当然である。だからわれわれが問題としたいのは、年齢別死亡率曲線で、これによると、とくに東北地方では秋田県を筆頭として若い時から血圧が上昇していることが認められるのである。われわれは30才から59才までの中年期の脳卒中の死亡率で比較しているが、東北六県では一年間で約4200名が死亡しており、もし、四国とか近畿の割合まで改善されればその死亡数は約2000人になってよいはずなのである。これによって東北地方では毎年毎年多くの人々が若く死んでいる事実として明らかにされてきたわけである。

 では、どうしたら「アタル」かということであるが、それを明らかにするためには、まず第一に脳卒中あるいは心臓病を含めても結構であるが、その資料を早く整えることである。先程暉峻義等先生が末端の資料が皆中央に持っていかれてしまって、町や村では一つも利用されていなということを指摘されたが、脳卒中の分析もやはり自分たちの問題として、自分たちで取り上げなければならない。

 ではどういうふうに取り上げたたらよいかとよいかであるが、われわれがとくに申しあげたいのは、とりあえず30才から59才までの人の死亡率を調べることである。本当は性別年齢別季節別のデ−タがどうしても必要であり、たとえば、昭和30年の性別死亡率は全国で人口10万につき、男117、女83であるが、秋田県の場合は男278、女163、青森県は男175、女105で、四国の香川県では男70、女50である。このようなデ−タを各ブロックで早く整理すべきである。これによってわれわれのおかれている運命を早く知るるべきである。

 次ぎに問題なのは、脳卒中の予防が可能かどうかである。発作があると、まず半数の人は一週間ないし十日以内に亡くなるという生物学的な資料をもっているが、これでもわかることは、脳卒中の治療はもちろん大切であるが限界があるということである。では予防は可能かという問題であるが、その可能であるという証拠は、第一にその死亡率に全国的に地域差があるということである。また日本一、おそらく世界一高いといわれる秋田県の中でも地域差があるということである。第二に、戦時中に非常に脳卒中死亡率が減少したという事実にある。これを出生年次別統計で調べて新しい事実がわかったのであるが、一番重要なのは40才から50才の時期で、その時予防するとか、戦時中のような生活をすると効果がある。第三に季節変動があることからも、予防が可能であると考えられる。

 また、脳卒中の根本にある血圧の問題についても、東北地方がやはり全国でも一番高く、またその中でも全国でも一番高く、またその中でも地域差があるということ、大人の血圧の高い所では小中学生でも高く、170とか180の者もいるということ。夏と冬で血圧が違うということ、そこから冬にご飯を食べすぎるという問題、その原因になっている暖房とか、衣服の不備などの問題がでてくる。

 血圧が高くなる原因と考えられている食塩についても、その摂取量に相当全国的に地域差があり、東北地方の農民は成人一人一日27グラムの食塩を消費しているが、近畿では17グラムである。これについても味噌の関係とかいろいろのことがでてくると思う。また野菜との関係もわれわれは考えている。

 こまかい点はそのくらいにして、われわれの根本的な考え方、40才から50才の働き盛りの人の脳卒中をなくしていきたい。アメリカでもいっているが、一人が一年間長生きし、それが百人いる集団ならば百年間の延長になるということである。ところが厚生省とかその他おもだった人の考え方はより個人的で、結核などの伝染病とは違うというふうに見ている。従って大きな病院とか大きな人間ドックを作るという点にはお金を投じ、またそれも必要ではあるのだが、40才から50才まで誰も血圧を測ったことがないという現状を何とかしなければならないと思う。

 この問題はわれわれの健康とか、長生きしたいとか、さらに大きな目でみれば生産力の増進とかの問題であるが、とのかく若い働き盛りの人の脳卒中を、これからはなんとかなくすように努力しなければならない。そのためにはわれわれ研究者がもと努力しなければ、まだよくわからない点が多くあるのであるが、それをただ待っているにはあまりにも大きい問題なので、少なくとも現在考えられている良い点を生活の中に取り入れてゆくことが必要だと思う。これは新生活運動とか生活改善とからむ問題であり、その面を強くおしすすめることによって、若い人の脳卒中死亡を70から80ぐらいに少なくすることが可能であると思う。

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