
大相撲:
グルジア出身の黒海 活躍は母国に希望
【トビリシ町田幸彦】「無血革命」で大統領退陣を実現させたグルジアは、欧州出身で初の幕内力士になることが確実な黒海関(22)の故郷だ。家族は首都トビリシで彼の活躍を熱い思いで見守っている。「過去の苦しみが息子を強くした。相撲は最も厳しいスポーツだ。日本で自分の道を切り開く息子を誇りに思う」。両親は息子に、新生グルジアに希望を与える一層の昇進を期待している。
グルジア人の黒海(本名=トゥサグリア・メラフ・レバン)は、元レスリング選手の父メラブさん(52)の影響でレスリングを習い、欧州ジュニア選手権フリースタイル120キロ級を制した。友人の話から相撲に興味を持ち、国際相撲連盟の田中英寿会長の紹介で01年来日、追手風部屋に入った。
「レバン(黒海)は絶対、音を上げて帰国しないと決めていた」。母ツィツィノさん(44)は当時を振り返る。黒海にレスリングを続けてほしかったメラブさんは最初反対した。しかし黒海が、相撲の世界のつらさを証明した田中会長の手紙を読み決心したので、角界入りを認めたという。
両親は「戦争をくぐり抜けた苦労が息子に強じんな精神を与えた」と話す。それは93年、グルジア西部のアブハジア自治共和国の民族紛争にほんろうされた体験だった。
家族は黒海沿岸の都市スフミに暮らしていたが、独立派イスラム系アブハジア軍とグルジア政府軍の内戦が続き、自宅は銃撃戦の中にあった。
両親は2人の息子を飛行機でトビリシに脱出させた。既に大柄だった12歳の黒海は「大人の兵士」と疑われ搭乗拒否されたのをツィツィノさんは泣き叫び頼み込んだ。1カ月後の93年9月23日、スフミはアブハジア軍によって陥落。両親は標高2000メートル以上の雪の山岳地帯を3日かけて歩き、車や列車を乗り継いでトビリシに着き、ようやく息子と一緒になった。
九州場所で十両優勝した黒海。父メラブさんは「自力で未来を開こうとする息子の活躍は母国に希望をもたらす」と喜ぶ。弟ギオルギーさん(16)は「さらに上位を目指してほしい」。そしてツィツィノさんは「息子を迎え入れ助けてくれた日本の方々に感謝しています」と話している。
◇家族無事に安堵
「家族が無事でホッとしている」。大相撲九州場所で十両優勝を果たし、来年初場所で欧州勢としては初の幕内昇進が確実な黒海(22)=グルジア出身、追手風部屋=は、祖国で起きた政変がひとまず沈静化したことに安堵(あんど)の表情だ。
12歳だった93年に内戦で家や牧場などを失い、生まれ育った黒海沿岸のスフミ市から、家族で首都トビリシ市へ移住するという苦難も体験した。それだけに、場所中も家族の安否が気にかかり、国際電話やインターネットでの情報収集を続けてきた。
国会議事堂前の広場を数万人の民衆が占拠したというニュースに心を痛めた。「これからどうなるのか。とにかく不安だった」。千秋楽(23日)直後にシェワルナゼ大統領が辞任し、最悪の事態は回避された。黒海は「また戦いになったらどうしようかと心配していた。大統領が自分から辞めてくれて良かった」と胸をなでおろした。
一昨年夏に来日してから、帰国したのは1度だけ。「今も飛行機はちゃんと飛んでいるようだし、大丈夫みたい」。国内情勢さえ許せば、クリスマスシーズンから年末年始に2度目の里帰りをして、故郷に錦を飾るつもりだ。【井上俊樹】
[毎日新聞11月26日] ( 2003-11-26-15:17 )