カスピ海ヨーグルトの真実
カスピ海ヨーグルトはロシアのサワークリーム「スメタナ」であった!
日本で大流行している「カスピ海ヨーグルト」は京都大学の家森名誉教授がグルジアの長寿村から持ち帰り、それが広まったというのが定説です。近年このヨーグルト菌の分析も進み、独特の粘性をもつクレモリス菌とアセトバクター菌の二つの乳酸菌が主に入っていることは広く知られています。 しかしながら、当協会の関係するすべてのグルジア人が、この「カスピ海ヨーグルト」を全く知らない!。そしてグルジアでもお目にかからないことは事実であり、「カスピ海ヨーグルト」がどこから来たのか?という謎は深まるばかりでした。その謎がこの度かなりの確度で解明されました。
本年10月、グルジアから乳酸菌の権威であるニノ・チャニシュヴィリ博士が帯広畜産大学の招待で来日しました。博士は日本の「カスピ海ヨーグルト」を食して直ぐに、ロシアの乳製品である「スメタナ」だと指摘しました。 「スメタナ」は牛乳から作られるサワークリームで、ロシアではボルシチなどの料理に欠かせない乳製品です。そして驚くべきことに、この「スメタナ」のスターター菌こそ、「カスピ海ヨーグルト」と同じクレモリス菌だということです。さらにニノ博士の指摘で、グルジアにもこのロシアの「スメタナ」が入ってきて一部に広まったそうです。 このことを科学的に証明することは、菌の遺伝子レベルまでの分析が必要ですが、これまで謎であった「カスピ海ヨーグルト」の真実に一歩近づいたと言えます。 また下記の「スメタナ」の製造方法を見てわかったことですが、経験的に、「カスピ海ヨーグルト」発酵させた後、冷蔵庫で一晩以上置いた方が美味しく感じていました。ここでいう熟成のようです。
本年10月10日(金)帯広畜産大学で開かれたニノ・チャニシュヴィリ博士の講演会で、上記の報告がされました。以下が当日のご案内&要旨です。
Dr. Nino Chanishvili (Eliava Institute of Macrophage, Microbiology and Virology主席研究員, トビリシ, グルジア国)
10月10日(金)13:00~14:00, 第3総合研究棟(旧生物資源科学棟)100番教室 世界中で販売されているヨーグルトなどの発酵乳の多くは、分離された乳酸菌スターターを使用し、近代的な工場内で製造されているものです。しかしながら、世界のローカルな地域には現在でもなお、代々受け継がれてきた発酵乳を植え継ぎ、自然発酵によって製造されているものもあります。各地に残っているものは味覚、酸味、粘性、香りなどにおいて、個性的であり、バラエティーに富んでいます。またその中に含まれる未同定の乳酸菌や酵母菌には、プロバイオティスク効果や免疫強化能などにおいて、付加価値の高いものもある可能性があります。ローカルな発酵乳製品から、有用な乳酸菌・酵母菌の菌株を探していくことも重要な研究課題です。 コーカサス山脈と黒海に囲まれたグルジア国(旧ソ連から独立した国)に代々伝わってきたマツオーニも、そのようなローカルな発酵乳の一つです。グルジアのマツオーニと言えば、世間的に広まっているカスピ海ヨーグルトだと一般的には思われています。カスピ海ヨーグルトはグルジアから持ち込まれ、各家庭で植え継がれている非常に粘着性の高い発酵乳ですが、グルジア各地の市場で売られているマツオーニにはそんなに粘着性の高いものは売られていないことが、8月に行った調査でも明らかでした。どうも話が違うのではないかと思っていたのですが、グルジア国のマツオーニの専門家であり来日中のNino Chanishvili先生に日本で広まっているカスピ海ヨーグルトを試食していただいたところ、これはロシアのスメタナという発酵乳であることを教えていただきました。スメタナは近年ロシアからグルジア国に持ち込まれ、グルジア国内の一部でも広まったものだそうですが、日本にグルジアから持ち込まれたものはどうもグルジア伝統のマツオーニではなく、スメタナのようです。 10日の講演会では、本物のマツオーニやグルジアでの乳事情について、英語で紹介していただきます。 帯広畜産大学 畜産科学科 荒井威吉教授・浦島匡教授
講演の要旨
コーカサス山脈と黒海に囲まれた国グルジアでは、有史以来2000年に渡って代々受け継がれてきたマツオーニという発酵乳を食している。コーカサス地方には長寿者が多いので、その食生活とくにマツオーニに食品科学者や栄養科学者の興味が集中してきた。1900年代初めからマツオーニの乳酸菌叢の解析が行われており、それはブルガリアヨーグルトに近い乳酸菌叢であると考えられてきたが、演者らの研究によって異なることが明らかになった。すなわちマツオーニでは主要菌叢であるLactobacillus delbruekii subsp. lactisとStreptococcus thermophilusが1:3であるのに対し、ブルガリアヨーグルトではLactobacillus delbruekii bulgaricusとStreptococcus thermophilusが1:1であること、マツオーニにはLactobacillus caseiが含まれる場合があることなどの点において異なっていた。またマツオーニは伝統的に乳の出が悪い母親の乳児に代用食として食べさせたりしており、プレバイオティスク効果や感染予防効果もあると考えられている。マツオーニには必ず酵母菌も存在しているが、その菌叢解析や効能の解析はまだこれから調べられる段階であり、帯広畜産大学との共同研究に期待している。また日本の食卓で広まっているカスピ海ヨーグルトはマツオーニだと言われてきたが、それはロシアからグルジアを経由して入ってきたスメタナという発酵乳であり、乳酸菌叢も物性もマツオーニとは全く異なっている。 |